【アルスラーン戦記】月と詩が導く先

違和感 ページ33

『やっと解放された…』

あの後、暫く二人から解放されずのぼせるかと思った
湯の熱さと恥ずかしさの熱さで。

「随分根掘り葉掘り聞かれたみたいだな?」

外通路の縁に腰かけて、夜風で熱を冷ましていると後ろから声をかけられる
この声は振り返らずとも分かる

『そう思うなら助けてくれてもよかったでしょう?ギーヴ』

「あの状態の二人に横やりなど、死にたくはないな」

『もう…』

ギーヴは笑って、私の隣に腰かける
彼もお風呂に入ったらしく、髪が濡れている

『ギーヴ、髪の毛ちゃんと拭いた?』

「ん、そういえばそのままだったな。まぁ時期に乾くだろう」

『いくらここが常夏とはいえ、夜は多少なりとは気温が下がるんだから気を付けないと…手ぬぐいは?』

「部屋に置いてきた」

『はぁ…動かないでね』

私はギーヴの正面に立って、自分が持っていた手ぬぐいを彼の頭にかぶせる

「おい、ルナ…」

『いいから動かないで。拭くから』

少し黙らせるようにわしゃっと髪を乱すと、大人しくなったので丁寧に拭いていく
サラサラとしている上に柔らかい髪はとても触り心地がいい
そうやって夢中になっていると、腰に彼の腕が回った

『っ…ギーヴ?』

「全く…冷たいかと思えば、不意に触れてくる…無防備すぎるぞ」

『ひゃっ…!?』

つ、と脇腹を撫でたかと思えば、次の瞬間にはギーヴの膝の上にいた
いまだに髪の毛を拭いていた私の腕は彼の首に回るようになってしまった
至近距離で、アクアマリンの瞳と交わる

「戦場では勇猛果敢だというのに、今は愛玩動物のようだな?万騎長総都督殿?」

『ちょっと、ここ通路っ…!!』

「いいだろ別に、減るものでもない。それに、あいつらの前で口づけしただろう?」

『そっ、れとこれとは話が違うでしょう…!?』

今日はやたらと引っ付きたがっている気がするのは、気のせいだろうか
なんというか、拗ねてる…?

「…お前、今日は随分と俺に対して冷たいな」

『は…』

彼からの突拍子もない言葉に、口から出かけた拒否の言葉が引っ込んだ

「冷たい…というよりは、拗ねているというのが正しいか」

『拗ねてるって…それは貴方でしょう』

「お前が冷たいうえに、ナルサスやらシャガードやらにいい顔するからな」

『……嫉妬…?』

「悪いか」

むすっと露骨に拗ねた顔をするギーヴに思わずときめいたのは内緒だ
まさか、余裕そうな彼はここまで拗ねるとは

『…ギーヴ』

「なんだ」

『可愛いね』

「喧嘩売られているのか、それは」

嫉妬同士→←水入らず

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