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また十つ ページ10

きゃっきゃっと弾んだ声を横目に暗い部屋で座っていた。
職員たちが騒いでいるから、里親に貰われて行った人が来ているのだろう。
私には、一生来ない日だ。
関係ない。

親は私をいらないと言ってこの門の下に私を置いて行った。
小学校に入るぐらいの歳だった。
あの人は私を足腰立たないほどに殴っていったから、私はどうすることもできなくて。
遠くなっていく臭い香水の匂いに息を吐いた。

親にさえ必要とされず、愛想や優しさなんて知らない私は、きっと誰からも愛されないし必要とされない。
こうやってじめじめとなんとなく生きて、なんとなく死んでゆくんだ。



キィ…

立て付けの悪いドアが開く音に目を開ける。
すると柔らかそうなショートを揺らす女の人がいた。

「君…何のために生きてるの?」

なにが?そう目で問い返す。

「一人で生きていくつもり?」

……

「きっと無理よ。人間は一人じゃ生きていけない。結局誰かに助けられて生きている。あなたも親がいないからこの施設の人に、施設を立ててくれた人に、この施設を支援してくれている人に助けられて生きている」

……

「生かされている身で、君は何を思って生きる?」

女の人がこちらに歩いてくる。
私の後ろにあった窓から日が差して、彼女の姿をはっきりと写した。
それに私は空いた口が塞がらない。

「私はある人の為なら命を差し出す。彼を、守る為にこの生を貪る」

彼女の首に巻かれた包帯。
頬のガーゼ。
髪もよく見たら歪だった。

「そ、それ…」

彼女の顔あたりを指差す。

「ん?どれだろう?首なら、これは父親に首を絞められた時についた痣を隠すもの。頬と髪はこう…ざっくりとね、母にカッターで切られたものだよ」

彼女は憎しみも、怯えも見せない。

「怖くないん、ですか?」

「もちろん。だってこれは、大切な人を守るための怪我だから」

誇らしそうに笑ってみせた女の人に、ゾッとした。
この人は駄目だ。
自分の命に価値を持ってはいない。
目的の為なら、何も厭わない。
だからこそ…

「私、必要とされますか?生きたいと思えますか?!」

久しぶりに大声を出した。
赤ん坊の頃以来だろう。
それに女の人はポカンとしてから笑った。

「うん。おいで。私のところへ」

差し出された手を取った。

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作者名:演狐 | 作成日時:2022年3月5日 17時

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