また八つ ページ8
下駄箱でAがくるのを待つ。
お目当ての彼女はすぐに登校してきた。
「おはよう御座います」
「…お前生徒指導。美術室にくること」
困った顔をしつつも付いてくるA。
ガムを噛みながら朝の独特の雰囲気を持った校舎を歩く。
美術室の真ん中にある丸椅子に腰掛けると前にAが立った。
「どうかしましたか?天元さん」
「有一郎はどうかと思ってな。やってるか?」
「ええ。今は基礎を叩き上げてます」
少し躊躇ってから、俺は口を開いた。
「無一郎は記憶がないんだとか。お前は何とも…報われねぇなぁ。兄…今は弟か…あれも記憶がねぇんだろ?あんなに守っているのに実の兄弟だとも知らない」
「それで、いいんです。守れれば、笑っていてくれればそれで私は幸せです」
胸に手を当てて微笑む姿は慈愛に満ちた聖母のようで、痛みを堪える子供のようだ。
「俺は生憎と前世の嫁が妹だ。新しい嫁探し中ってわけなんだが…
A、俺の嫁にならないか?」
少し驚いたように目を開いたAに甘く囁く。
「前世は何も言えなかったが…俺はそれなりにお前を好いていた」
細い腕を引き、抱き寄せようとしたが、腕を突っ張って拒否された。
「生徒と一線を越えるような…馬鹿な教師にはならないでくださいね。“宇髄先生”」
「はっ…そうだな。後の時透が怖え。
でも、あいつがもし思い出すような事がなく、お前が成人したら、俺の元に来るといい。
待ってる」
一度壊れないよう優しく抱きしめて、手を離した。
「授業、遅れるぞ。瀬嵐」
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作者名:演狐 | 作成日時:2022年3月5日 17時