また十四つ ページ14
ついに有一郎のデビューがやってきた。
私は夜の帳が下りた町を学校の屋上から見下ろしていた。
小さい影がぴょこぴょこ跳ねているのを胸の辺りを握りしめて見ていた。
「そんなに不安か?」
声をかけられて振り返ると、闇に白髪を靡かせた大男が。
「ええ、まあ…」
「大丈夫だよ。有一郎を育てたのはお前だし、無一郎の兄だ」
「だから、不安と言えば…笑いますか?」
ゆる、と首を横に振り、私の隣に天元さんが立つ。
腕を柵に乗せて、寄りかかっていた。
「あの子は、有一郎は、たしかに強いですよ。芯が強くて折れることは無さそうで。でも、挫折を知っていて。だから、頑張りすぎちゃうんです。今日だって剣を握って三ヶ月でデビューですよ?無一郎同様の快挙です。
そのまま、有一郎は消えてしまいそうで」
胸がスッと冷たくなって、ぎゅっと痛みが走る。
それを抑えるみたいに胸元を掴む。
あの呼吸のように、スッと霞に紛れて、いなくなってしまいそうで。
見えているものは残像で、決して掴めないのではないかと。
「怖い、のか…?」
「…はい」
震えた声で答えると頭に大きな手が乗せられる。
それが強く左右に動かされて、首が左右に揺れる。
なんでこんなに気にかけてくれるのか…
多分、かつての兄が兄でなくなってしまい、迷子の私のアニキ分になってくれたんだ。
この優しさが温かく、献身的で、ちょっと苦しい。
「あの美術室の話は…なんですか?」
「茶番。まあ、幸せになってほしいよ、お前には」
「なんでですか?」
「なあ、なんで一人で全部抱えて逝ったんだ?」
「…私の質問の答えは?」
「なんでだ?」
少し冷たく尖った紅い瞳が私を射抜く。
その圧に気圧されて、私は口を開いた。
「あれの最適解はなんでしたか?私にはあれ以外の、あれ以上の最良の結果が見えませんでした」
いつかも言ったその解に、宇髄さんがはあー、と大きくため息をついた。
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作者名:演狐 | 作成日時:2022年3月5日 17時