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『お待たせ。』



バーの前で待ってくれていた樹に声をかける。

普段会う時はチャラチャラした服装の樹も仕事帰りの今はきちっとスーツを着こなしている。
成人してから早くも8年が経つがその姿はいつ見ても見慣れず、今も何処かに学ラン姿の樹を勝手に映し出してしまっているような気がする。



「うわ、いつもより綺麗じゃん。俺が見た中で一番綺麗かも。」


『それは褒めすぎ。たまにはちゃんとした格好もアリかなって思って。』


「いやぁ、これは人妻で子持ちには見えない。お前が女だったら惚れてた。」


『女ですけど、もともと。』


「ははっ。まあ行くべ。」



樹とのくだらない冗談はすごく落ち着く。
何故だろう。
一種の精神安定剤だと言えるほどに楽な気分になれるのだ。







ヴィンテージ調のお洒落な扉を開け、どんどん奥へ進んでいく樹の後ろ姿を追いかけて通路を歩けば見慣れた景色が広がっていた。

ここに来るのは約半年ぶりだった。



「いらっしゃい。」



バーの店長である岸さんが私たちに笑顔を向ける。
口角を上げ、目の端に皺を作る、この笑顔もずっと変わってない、変わらない。



私と樹がこのバーを知ったのは大学の先輩の紹介だった。
二人揃って宅飲み派の私たちがここに来るのなんて1度きりのことだと思っていた。
だけど店長の人柄や店内の雰囲気が気に入り、いつの間にか何年も通い続ける常連に。



「何にしますか?」


「あーいつもので。」


『私も。』


「かしこまりました。」



私たちの一杯目はいつも【キール】。
カクテルにも1つずつ意味があって【キール】は【最高の巡り合い】という意味らしい。
初めて来た時にお酒に詳しかった先輩がオススメしてくれたんだ。


本来は恋愛的な意味を含むけれど、言葉的にはお前たちにピッタリだ、って。





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作者名:悠 稀 。 | 作成日時:2019年1月23日 0時

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