林檎と指環 (ページ11)

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『も、もう、揶揄わないの。』

慌てて目を逸らしカウンターの上で指環を覆うように握っていた自分の手を見つめた。
少し強く握っているせいで指輪の感触が掌に伝わる。

「揶揄ってません。」

真剣さのある声に引き寄せられるようにしてもう一度彼の方を見た。
色素の薄い瞳に吸い込まれてしまいそうで思わず息を飲む。

『て、ていうか、今会ったばっかりじゃん。』

「俺だって、おかしいと思います。でも、

...一目惚れ、しちゃいました。」

薄暗い照明の中、少し頬を赤らめた彼と見つめ合う。

あ、岸さん。
岸さんに聞かれているかもしれない。
そしたら既婚者なのに、あの人何やってんだって、思われちゃう。

だから、駄目。

どんなに退屈だったとしても、退屈しのぎだとしても、これは、これだけは駄目。

段々、お洒落なジャズ調のBGMさえも聞こえなくなりだした。
私たちは見つめあったまま、視線を逸らせずにいる。

「...好き。」

私は彼の手を握った。

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