月に堕ちる (ページ4)

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　ここでの名前は特に決めていない。相手に好きに呼ばせてその名前で生きている。だって名前なんて知ってもどうせ数ヶ月後には私の事なんて覚えていないから。
　そんなひねくれた私だったが、興味を持ったメッセージがあった。

　それは私が「家を出たい」という趣旨の発信をした時の話だ。当たり前に男たちはいやらしい下心丸出しの犯罪性のあるメッセージを送ってきた。
　だがその中のひとつに「誰かにお世話になるのは危ないから好きなだけ電子マネーの支援をさせて欲しい」という内容があった。

　ただの好奇心。初めて心惹かれた瞬間だった。

　なぜ身体を要求するのではなく、一方的に金銭の支援をしようとしてくれているのかと聞くと「妹もそんな感じだから」と言ってきた。
　嘘かもしれない。けれど興味が湧いた。妹みたいだからという理由で見ず知らずの女子高生にお金を送ろうとする人が世の中にいるのか。心の底で馬鹿だと思った。

　私に何も求めてこない彼。顔が見て見たくなって気がつけば私の方から会うことを強請っていた。
　どうせ誰も私の事なんて見ていない。嘘か本当かなんてどうでもよかった。

　彼と出会って私はSNSをやめた。

　彼との逢瀬には決まりがある。彼の家で会うこと。外で名前は呼ばないこと。メッセージのやり取りは会う前と会った後だけで執拗に送らないこと。電話はしないこと。

　これらの決まり事を客観的に見ると健全な関係ではないと言われそうだがそんなのは私がいちばんよくわかっていた。
　既婚者なのかと疑って聞いてみたけどさすがにそんなリスクを君に背負わすことなんてしないよ、と言われて以来何も言えなくなってしまった。

　この際なんだっていい、彼と一緒にいられるなら。

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