月に堕ちる (ページ19)

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「檜山くんがなんと言おうと私は彼の恋人でもなんでもないです、檜山くんのことは……」

　檜山くんの前では普通の女の子でいたかった。だけれど涼さんのところに通ってると知られた今、私は純粋ではいられなくなった。
　絶望した。檜山くんとなら普通の恋愛もできたかもしれない。誰もが経験するような恋愛ができたかもしれなかったのに。

「……返事は急がないから聞かせて」

　扉を出ていく檜山くんの姿を見て涙が流れた。狼狽えた。私は誰かを思って泣けるんだ。悲しい。もっと普通の女の子にして欲しかった。
　傷なんて見られたくないからプラトニックな関係で、それでいて心は繋がっているようなそんな関係が欲しかった。

　そんな時電話がなった。7月の下旬、夏休みの一日前の出来事だった。

「Aちゃん、これから旅行行かない？」

　あぁ、この声。ずっと愛おしいと思っていた。すぐに身体が熱くなって、私を女にしてくれていた。でも、この人に縋ってちゃ何も前に進めないよ。そうして口走っていた。

「ごめん、いけない」

　私は電話を切った。数日後、彼の連絡先が消えていることに気がついた。8月8日。私の18歳の誕生日の出来事だった。

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