月に堕ちる (ページ1)

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　窓の外から聞こえてくる雨の音。湿気を帯びた独特の、じめっとした匂いが鼻腔を掠めて私は目を覚ました。

　ベッドの脇にある小さな目覚まし時計に目をやると短針が11を指していた。今日は平日で、学校だって行かなきゃならないはずなのに、敢えて、家を飛び出して素敵な夢に沈んでいた。

　隣にはまるで作り物かのように綺麗な顔をした、とてつもなく愛おしい彼が寝息を立てていた。亜麻色のふわふわした透明感のある髪を手で撫でると彼は「んん、」と少し唸って、瞼をゆっくりと持ち上げた。

「涼さん、ごめんなさい。起こしちゃいましたか？」

「んんん、雨の音で起きた」

　起きたての彼が強引に私の体を抱きしめた。少しの体格差からか、彼の腕の中には自然とすっぽりと収まってしまった。何度も抱きしめられてはいるがこのあたたかさ、安心する。

　どくり、どくり、とゆっくりと音を立てる心音は私のものか、はたまた彼のものかはわからなかったし、どうでもよかった。
　その音が優しくて、心地よくて、愛おしくて、再び瞳を閉じた。

　

　6月16日。17歳。何度目かの彼と過ごす朝だった。

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