66話 ページ16
助産院の玄関戸を開けると
亜由美さんが立っていた。
「…聞いてました?」
「聞こえたのよ、二人の大声。
帰ったの?」
「さっき帰って行きました」
靴を脱いで、亜由美さんの横をすり抜けようとすると腕を掴まれた。
「ハルくん、ちょっと来て」
手を引かれたまま控え室に連れていかれた。
椅子に座らされると、頬に湿布を貼られる。
アザにでもなっていたんだろう。
俺の冷たくなった指先を握って
結婚したらいいのに、と
亜由美さんがポツリと言った。
「嫌なんです、思い出すの」
「赤ちゃんのことも?」
少しだけ頷いた。
辛かったよねぇ、わかると亜由美さんは
笑った。
どこか寂しそうな顔だった。
「私ね、流産したことあるからさ」
初耳だった。
結婚して5年。まだ二人には子供がいない。
まだ仕事で大変だから作らないだけだと思ってた。
「子どもは授かりものだからね。
何があるかは自分も分からない。
でも、赤ちゃんがいたのは変わらないこと。
そうじゃない?」
亜由美さんはゆっくり俺のお腹を触る。
女の人らしい、白くて細くて長い指。
見とれてしまった。
「ここにいたんでしょ?」
俺はなんだか心がぐっとなって
何も言えなくなった。
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朱々璃(プロフ) - こんぺいとうさん» 閲覧ありがとうございます!コメント頂けるとやる気起きます笑 少しずつですが頑張ります(^^) これから、兄弟一人一人の恋事情も挟みますのでお楽しみください!これからもよろしくお願いします (2017年11月13日 12時) (レス) id: e291ea7c47 (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとう(プロフ) - すごく面白いです!更新頑張ってください!楽しみにしています! (2017年11月11日 23時) (レス) id: 44526260a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱々璃 | 作成日時:2017年11月2日 1時