立春 4 ページ8
・
俺達は入学式の会場である講堂にたどり着いた。
「…本当に大丈夫？」
「なんとか、ね。」
息ばかり吐き出す俺に、いい加減心配になってきたのか照が尋ねてくる。俺はその質問に嘘を半分交ぜて答えた。本当はマジで吐きそう…
俺達が席に着いてから、そう時間が経たない内に式が始まる。
「これから入学式を始めます。」
入学式。それはいつもなら長くて眠たくて、本当にダルいイベントのはずなんだけど。
今回は違った。背筋を伸ばし、足を揃えて堂々と座る。校長の長ーいお話になっても、全然睡魔は襲ってこなくて。ただ自分の心臓の音が大きくなるばかりだった。汗がじんわりと俺の首筋を伝う。
『では次、新入生代表挨拶』
……ついに来てしまった、この時が。
『新入生代表、阿部亮平。』
「はい！！」
名前を呼ばれ、姿勢を崩さずに立ち上がる。
チラリと横に座っていた照を見ると、今の状況が分からないのか顔に戸惑いの色が浮かんでいた。
俺は舞台の方へと一歩一歩近づいていく。
この学校では首席入学した者が入学式で挨拶をするということは前から知っていた。しかも、この学校の入学式は少し変わっていて。在校生も参加しなければいけないという謎の規則があるのだ。だから、わざと入試で満点を取った。本当なら挨拶なんてごめんだけど。彼に顔を覚えてもらうチャンスだと俺は考えたから。
コツンと靴を鳴らし台の上へとのぼる。上から見渡してみると、たくさんの人が俺の事を見ていて。心臓が早鐘を打っていく。もともと緊張に強いタイプではないのに。俺は汗ばんだ手をギュッと握り覚悟を決めた。胸を張ってマイクに顔を近づける。
「皆さん、こんにちは。新入生代表の阿部亮平です。さて、僕達は高校生になり新しい生活が始まりました…」
俺はただひたすら平凡な挨拶をしていく。こんなのつらつらと新しい決意を述べているだけだ。生徒達も半分は聞いていないだろう。ただ噛まないようにそれだけだ。
長過ぎると飽きてしまう生徒の心も分かっているので、短めに作っておいたスピーチ内容はすぐに終わりそうだ。
「……これで挨拶を終わらせていただきます。」
感情の無い拍手と共に俺のスピーチは幕を閉じる。どっと安心感が押し寄せ、暴れていた心臓が落ち着きを取り戻しはじめていた。彼に見てもらえただろうか、と自分に問う。
……その答えを知る日は来るのだろうか。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 546人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「学パロ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫暮姉(プロフ) - 主さん» コメントありがとうございます。このところ更新が遅くなってしまい申し訳ありません。ですが最高の作品と言って頂けて、とても嬉しいです。これからも応援よろしくお願いしますね (2020年8月23日 0時) (
レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
主(プロフ) - 初めまして！主と申す作者をやらせてもらっているものです！あべさく大好物の私にとって最高の作品で楽しく読ませてもらってます！更新頑張って下さい！ (2020年8月13日 10時) (レス) id: 9a88ff9636 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - 藤菜さん» コメントありがとうございます！！！面白いですか？！そんな風に言ってもらえて凄く嬉しいです。少しずつですが更新していくので応援よろしくお願い致します。 (2020年6月28日 1時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
藤菜 - 初めまして！佐久間大好き！あべさくコンビも大好きです！この小説とても面白いですね！頑張ってください！応援してます！ (2020年6月28日 0時) (レス) id: f78a68b7f1 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - めぐみみさん» コメントありがとうございます！ずっと書きたかったので、拙い文章ですが応援よろしくお願いします。 (2020年6月13日 10時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫暮姉 | 作成日時：2020年6月11日 20時
