夏祭 5 ページ27
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祭りは山車が主役だというのに、俺はそれに目もくれず屋台の方ばかり見ていた。そこから漂う甘い香りが俺を誘う。
「さ、佐久間さん!ねり飴がありますよ!!」
「えっ?!まだ食べるの?!?!」
信じられないという風に目を丸くする佐久間さん。俺はというと、はしゃぎ過ぎて胃袋の限界が分からなくなっていた。
「あれもっ…!」
「阿部ちゃん!一回座って食べよう?!」
そう言われたので近くのベンチに座って、ねり飴を食べることにしたのだ。もう辺りは暗くなり、お祭りも終盤といったところだろう。俺はねとりとした飴を一口食べる。
「どう?うまい??」
「お、美味しいですっ!!」
手がベタベタになりそうな食べ物だが、味はとっても美味しい。俺は飴に差し込まれた割り箸をぐるぐると回して、さらに練っていく。
「阿部ちゃんはお祭り来るの初めてなの?」
「小さい頃は来たことあったんですけど…
勉強が忙しくなってからは来てませんね。」
もっと小さい時は、よく金魚すくいをしたものだ。屋台のおじさんがサービスで一匹プラスしてくれたりしたっけ。ただ金魚が死んでしまうと悲しくなるので今日はやらないと決めていたが。曖昧になっていた記憶が少しずつ蘇ってくる。
「そういえばさ、なんで阿部ちゃんは深澤のことふっかって呼ぶの?」
「ふっかにそう呼べと言われたので…」
「…そっか」
俺は佐久間さんの質問に答えながら、歯にくっつきそうな粘り気のあるそれを慎重に食べ進める。そんな俺を隣にいる佐久間さんはじっと見ていた。…少し食べずらい。
「ど、どうかしましたか?」
「っ!いや…」
佐久間さんはあとを濁すように言う。いや…の後に続く言葉を予想してみたものの、これといったものが思い浮かばない。
「佐久間さん?」
俺が佐久間さんを覗き込むようにして尋ねると、彼は少したじろぐ。そして数秒間沈黙が続いた後、そっと呟いた。
「…それ、やめない??」
「えっ?」
「佐久間さんじゃなくて、名前で呼んでよ。」
俺と佐久間さんの間にふわっと風が駆ける。賑やかな祭りの音が遠ざかり、俺はただ佐久間さんの言葉に意識を囚われていた。
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紫暮姉(プロフ) - 主さん» コメントありがとうございます。このところ更新が遅くなってしまい申し訳ありません。ですが最高の作品と言って頂けて、とても嬉しいです。これからも応援よろしくお願いしますね (2020年8月23日 0時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
主(プロフ) - 初めまして!主と申す作者をやらせてもらっているものです!あべさく大好物の私にとって最高の作品で楽しく読ませてもらってます!更新頑張って下さい! (2020年8月13日 10時) (レス) id: 9a88ff9636 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - 藤菜さん» コメントありがとうございます!!!面白いですか?!そんな風に言ってもらえて凄く嬉しいです。少しずつですが更新していくので応援よろしくお願い致します。 (2020年6月28日 1時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
藤菜 - 初めまして!佐久間大好き!あべさくコンビも大好きです!この小説とても面白いですね!頑張ってください!応援してます! (2020年6月28日 0時) (レス) id: f78a68b7f1 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - めぐみみさん» コメントありがとうございます!ずっと書きたかったので、拙い文章ですが応援よろしくお願いします。 (2020年6月13日 10時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紫暮姉 | 作成日時:2020年6月11日 20時