検索窓
今日:5 hit、昨日:14 hit、合計:94,541 hit

立春 12 ページ16







今まで淡々と喋ってきた深澤さんの口調に淀みが生じた。苦しそうに口の端を曲げる彼はどうしても見ていられなくて。俺は黙って目を逸らす。




「うん、佐久間は問題を起こしたんだよ。少し前に。そしたら皆、怖がって少し距離を置くようになった。」




「も、問題?」




「ああ。この街の中では有名な話さ。




…不良グループ一つ潰したんだよ。あいつ一人で何十人も病院送りにした。殴りかかった理由は襲われてた女の子を助けようとしたから、らしいけど。噂は正確に広がっていかないものだからね。友達だから何とかしてあげたかったけど。ダメだった。」




そっと視線を移すと深澤さんが目を伏せ、手をきつく握っているのが見えた。相当、仲が良かったのだろう。俺はそのくらいしか分からないけど、この話の中には入り切らないくらい色々あったのだと、空気が語っていた。



「そう、ですか…」



「うん。あいつにも色々抱えてるもんがあるんだ。」




佐久間さんの抱えているもの。それは俺にとって知ることも無い深いものだなのだと。人の黒い感情が作った大きなものだと察した。




「…今言えるのはこのくらいかな?」



「ありがとうございました…」




俺は深々と頭を下げる。深澤さんはそれを見て少し哀愁を含んだ笑みを浮かべた。その表情が俺の心を刺す。好奇心は時に残酷だ。俺は初めて人の哀しみに触れてしまったのだから。哀しみというものはこんなにも重たいものなのか。



…こんなにも胸が痛むのか。






「それでは、また来ますね。」



「これからよろしく頼むよー。会計さん。」




一礼だけして照と共に部屋を出る。少し豪華な扉の外に出ると深澤さんにちょっと待って、と引き止められた。俺は振り返って彼を見る。



「良い情報、教えてあげるよ」



「え?」



「この生徒会室によく出現するよ?佐久間。運が良かったら会えるかもねー。それだけ。バイバイー」






バタンと扉が閉まる音がする。俺達が閉めたわけではないから、多分渡辺さんあたりが勝手に閉めたのだろう。というかあの人しかいない。



「なんか…。最初怖かったな。」


「そうだね。深澤さんのあの眼差しと笑顔、凍るかと思ったよ…」


「…阿部はよく頑張ったよ」




夕暮れの差す廊下を歩き始める。佐久間さんが生徒会室に現れる、か。もしかしたら深澤さんはその事も考えて会計を推薦してくれたのかもしれない。もし、そうだとしたら彼には一生敵わない。




真夏 1→←立春 11



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (179 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
546人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

紫暮姉(プロフ) - 主さん» コメントありがとうございます。このところ更新が遅くなってしまい申し訳ありません。ですが最高の作品と言って頂けて、とても嬉しいです。これからも応援よろしくお願いしますね (2020年8月23日 0時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 初めまして!主と申す作者をやらせてもらっているものです!あべさく大好物の私にとって最高の作品で楽しく読ませてもらってます!更新頑張って下さい! (2020年8月13日 10時) (レス) id: 9a88ff9636 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - 藤菜さん» コメントありがとうございます!!!面白いですか?!そんな風に言ってもらえて凄く嬉しいです。少しずつですが更新していくので応援よろしくお願い致します。 (2020年6月28日 1時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)
藤菜 - 初めまして!佐久間大好き!あべさくコンビも大好きです!この小説とても面白いですね!頑張ってください!応援してます! (2020年6月28日 0時) (レス) id: f78a68b7f1 (このIDを非表示/違反報告)
紫暮姉(プロフ) - めぐみみさん» コメントありがとうございます!ずっと書きたかったので、拙い文章ですが応援よろしくお願いします。 (2020年6月13日 10時) (レス) id: e560777b7f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:紫暮姉 | 作成日時:2020年6月11日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。