恋愛低体温

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「＿＿＿あ。」







水曜日、
返却されてきた本を
本棚に返す作業をしていると、


見覚えのあるタイトルに
手が止まった。







＿＿＿これ、、





先週来たあやしい人、
あの人が探してた本だ…


木曜日って言ったけど
一日早く返却されたんだね…







「………」







少し悩んでから何冊かまとめて取って
順に本棚へと戻していく。




返却棚に 一冊だけ残して＿＿＿





たぶん元の場所に戻しておいても
明日まで誰も借りないと思う。

だってすごくマニアックな本だもん




でもね、、一応…。



いや…この本借りたいって人がいたら
もちろん貸し出すよ？
早い者勝ちだもん…



ただ…なんとなくだよ？
明日って言っちゃったから…







珠美さんには
『一冊だけ返し忘れてるよ？』
なんてツッコまれちゃったけど
なんとなく夕方までは返却棚に置いておいて、

閉館前に所定の位置へと戻しておいた。







明日いつ来るかもわからない
もしかしたら明日来ないかもわからない。

だけど、なんとなく…
その本の行方が気になっちゃったのは、本当。







だから木曜日の午後、
彼が入って来た時にカウンターの中で
思わず声をあげちゃったの。






「あっ！」


……って。








その声に反応した彼がこっちを向いて
足を止めるのと…

私がガタンって椅子から立ち上がったのが
一緒くらい。









軽く会釈した彼に
慌てて私も会釈して

足早にカウンターを飛び出した。






チラッて後ろを振り返ったら
ちゃんと彼はついてきてて…



昨日戻しておいた場所に
きちんとその本は収まってた。








人差し指で引き出して手に取ったら、
これで間違いないよね？って意味を込めて
タイトルを一度なぞって

それから彼に本を手渡す。








「ありがとう、、
覚えててくれたんだ？」







やっぱり深く帽子を被ってて
あやしさ満点だけど、


彼の声は今日もどこか心地良くて、

それから見上げた眼鏡の奥の瞳が
とても優しそうで




なんとなく…
なんとなくだけど、





この人は
穏やかな人なんじゃないかな？って
そう思った。








「借りて行きますか？」


「はい。でも、此処で少し読んでいきます。」


「では、帰られる前に
カウンターに寄ってください。」



「はい。わかりました」








ありがとう、と私に御礼を言って
彼は空いてる席へと腰を下ろした。

帽子を脱ぐわけでもなく、
肩肘をついた姿勢でパラパラとページを捲る。

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