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一目惚れしました!なんて言って福良さんに声を掛けた日が懐かしい。
「A?なにしてんの?」
「ん?手紙読んでるの」
「手紙?誰から?」
「んー、、大切な人から、かな」
目の前で首を傾げるあなたにはきっとわからないでしょう。
「私が人生で一番楽しかった頃の話だよ」
あの頃は私も若かったな、なんて今でも思い出す。
私の甘くて苦い春の思い出。
「とりあえず場所変えようか」
駅の駐輪場脇のベンチに福良さんが座ったから、少しだけ間を空けて隣に座った。
「えーっと、Aさん?」
「はい」
「なんで俺なの?」
「なんで、とは?」
「だって俺と話したこともないでしょ」
確かに話したことはない。名前だってついさっき知ったばかり。
それでも真面目な顔で本を読んでる姿も、お友達と楽しそうに笑う姿も、どんな姿も素敵だと、輝いて見えたのだ。
「好きになるのに理由は必要ですか?」
「いや、きっかけとかさ」
「一目惚れに理論は必要で?」
「んー、メカニズム的な話はいらないんだけどなあ」
明らかに彼が困っているのはわかる。わかるのだけど、私だってやっと見つけたチャンスを逃すわけにはいかない。
邪魔者(彼のお友達)が居ない今しかないんだ。
「あの、お友達、いや、知り合いくらいから始めて頂けるだけでもいいんです!」
「まあ、もう顔見知りみたいなものだからね」
おお、知り合い認定に昇格している。
「それで、、連絡先、教えてもらっていいですか?」
「ふはっ、普通告白よりそっちが先だよね?」
面白いなあ、と少し特徴的な笑い声に嬉しさと恥ずかしさが混ざり合う。
「これからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
追加された連絡先がこんなにも嬉しかったのは、後にも先にもこの時だけだった。
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作者名:*ゆ う* x他3人 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月14日 6時