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「では、弊社を志望された動機を教えてください」
『はい。私が御社を志望しましたのは―』
もう何度目か分からない、このやり取り。
何社受けても、どんな会社を受けても、内定は一つも貰えなかった。
東大生というだけで目を光らせていた面接官も、私が話し出せば次第に興味を無くしていく。
面接終了後、髪を一つにまとめてリクルートスーツに身を包んだ私は、公園のベンチに座りボーッとしていた。
周りがどんどん就職先を決めていく中、私は一人取り残されたまま。
原因は分かってる。
私は自分が何をやりたいのか、それすら分かっていないこと。
この会社に入ったら、こんな仕事をしたい。
私はこういう人間だから、きっとこんな形で会社に貢献できる。
就活生ができて当たり前な分析やアピールを、私はまったくできていないのだ。
そしてこの口下手な性格。
初対面の人の前で萎縮してしまい、伝えたいことの半分も伝わらない。
そんな学生など、私が面接官であったとしても不合格にするだろう。
自分が何をしたいなんて、分かるはずもない。
だって私の夢は、ずっと一つだから。
それはもう、叶わなくなってしまったけれど。
さすがに伊沢さんも、ライターとしてならいざ知らず、社員として私は不要だと思ったのだろう。
堪えていた涙がじわりと滲む。
オフィスに行きたくないなぁ。
でも、行かなくちゃ。
重い腰を上げてベンチから立ち上がった私だったが、すぐにふらりと近くのコンビニに吸い込まれて行った。
滅多に飲まないアイスコーヒーを買い、再びベンチに舞い戻る。
ストローに口をつけプラスチックカップの中の黒い液体を吸い込めば、たちまち口の中は咽るような苦さで満たされた。
コーヒーを飲めば大人になれる気がした、なんて言ったら馬鹿馬鹿しいだろうか。
だがそれほどまでに、この時の私はこの苦しみから解放されるすべを知らなかった。
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作者名:*ゆ う* x他3人 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月14日 6時