検索窓
今日:14 hit、昨日:11 hit、合計:57,463 hit

ページ25

大きく息を吸い、彼女の甘やかな匂いを胸に満たせば、霧が晴れたかのように先程までの黒い感情が消えていった。

名残惜しそうに彼女をそっと離し、俺は手に持っていた紙袋を何も言わずに差し出した。

それを見てこてんと首を傾げる彼女に、

「お返し」

と一言だけを告げる。

あぁ、と言いながら、彼女は手に持っていた3つの箱を自らのデスクに置き、俺の差し出したそれを丁寧に受け取った。

『ありがとうございます』

紙袋に書かれているロゴマークをジッと見つめた彼女の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

『え…これって…』

おそらくそのブランドを知っているのだろう。
そしてそれが、ちょっとやそっとでは手が出せないものであることも。

「開けてみ」

ゴクリと生唾を飲み込んだ彼女が、慎重にその綺麗な包装を解いていく。

紙袋から取り出した真白い箱。
それを包んでいた青いリボンをシュルリとほどくと、箱の上部に手をかけそれを開く。

そこにはイエローゴールドの華奢なチェーンでできたブレスレットが収められていた。

『わぁ、綺麗…!』

留め具の反対方向には、アクセントとしてほんの小さなプレートがついていて。

それに気づいた彼女がすぐに確認すると、

『……っ』

そこには2人のイニシャルが刻まれていて。

感極まったらしい様子の彼女が口元を手で押さえる。

『須貝さん、これ、あの、』

何やら慌てた様子の彼女が可愛らしくて、俺は思わずふは、と笑ってしまった。

手を伸ばしてポンと彼女の頭に掌を乗せる。

「気に入った?」

緩やかにその柔らかな髪を撫でれば、彼女は気持ち良さそうに目を細めながらこくりと小さく頷いた。

あぁ、この顔だ。

俺だけしか見ることのない、安堵と幸福に満ちたようなその表情に、俺は心を奪われ続ける。
 
喜んでくれて良かった。

俺は再び彼女を胸の中に閉じ込めた。



ブレスレットを贈ることには意味がある。
それはネックレスは首輪、指輪は他の者を寄せ付けない独占欲と似た意味。

腕を戒めるもの、手錠だ。

幸いなことに彼女はその意味を知らないらしい。
俺も今後、何があったとしても決して彼女には言うつもりはない。

余裕のある年上彼氏を演じている俺が、そんな子どもじみた束縛をしているなんて知られたくないから。


**

いつもは皆のお兄さん。
大人の余裕と頼り甲斐があって。
そんな彼が、実は好きな女の子には嫉妬深い。ホワイトデーをテーマに書かせていただきました。

お読みいただきありがとうございました。

Annie

Poisson d'avril ini→←◇



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (79 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
167人がお気に入り
設定タグ:QuizKnock
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:*ゆ う* x他3人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年3月14日 6時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。