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ホワイトデー当日。
俺はリボンのかけられた白い紙袋を片手に、オフィスへの道のりを急いでいた。
予定よりも少し遅くなってしまったが、この時間帯ならおそらく彼女はオフィスにいるはず。
こぼれるように落ちていく夕日に包まれながら、俺は思考のすべてを彼女に捧げていた。
渡すシチュエーションはまったく考えていなかったが、それよりも何が何でも早く渡して彼女の喜ぶ顔が見たいと思った俺は、早歩きを通り越してもはやダッシュの域に入った。
オフィスの入ったマンションが見えてきたところで、さらにラストスパートをかける。
いつもはエレベーターで上がるところを、俺は心が逸るままに一目散に階段を駆け上がった。
いくら普段野球で鍛えているからといって、さすがに階段全力ダッシュはきつい。
息を切らして目的の階に辿り着き、オフィスのドアまであと数メートルというところで俺はふと足を止めた。
早くプレゼントが渡したくて肩が上下するほど急いできたなんて、大人の余裕も何もあったもんじゃない。
QuizKnockの最年長たる俺が、何より可愛い彼女の頼れる年上彼氏たる俺が、こんな姿を見せていいものだろうか。
ぴたりと足を止めた俺は、深く息を吸い込む。
2〜3度肺に空気を満たせば、それだけで少し気持ちが落ち着いたような気がした。
よし。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。
らしくもなく緊張の面持ちで中の様子を窺えば、そこには何人かの人間の気配がした。
やっぱり他の奴らもいるよなぁ。
そんな中でどうやって彼女に渡そうか。
すると、一足早く作業部屋の方から彼女の喜ぶ声が聞こえてきた。
まだ俺はプレゼントを渡していないというのに。
目を見開きながら慌てて靴を脱ぎ中へと入ると、そこには愛しの彼女が山本、こうちゃん、山上に取り囲まれている姿が。
心の底から面白くない光景だと思いながら、俺はずんずんと足を進め彼女と奴らの間に割って入る。
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作者名:*ゆ う* x他3人 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月14日 6時