世界観 ページ22
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蓮くんがファウルをもらうたびに、びっくりするくらい心臓が痛くなる。
渡辺「おら。座れ。目黒大丈夫そうじゃん」
『……そういうことじゃないから』
渡辺「まぁまぁ。興奮しないで」
ピー、という長めの笛の音に、思わず立ち上がる。それを横からさりげなく静止するお兄ちゃんの言葉は今はあまり聞き入れられそうにもない。
私の知ってる蓮くんじゃないみたい。だから余計に熱く応援したくなるし、怪我をしないか心配になる。息がうまくできないくらい一分一秒が長い。
佐久間「なぁーんか、めめ気合い入ってんね」
阿部「ね。まぁ決勝だからこんなもんよ」
渡辺「何か良いことでもあんのかね〜」
ほんとに、この人たちって呑気。何でこんなに呑気なの?点数も入ってなくて、ファウルもらってばっかりで、いつ怪我するかも分からないのに。蓮くんが。
『ちゃんと応援して』
渡辺「してるよ?」
『何か茶化してるようにしか見えない』
渡辺「いや?別に?」
お兄ちゃんの含みをもった言葉には意味は感じられないけど。勝ったら良いことあるんだろうな。それってなんだろう。
ん?あのマネさん関係してるとか?……いや、それはないか。
"前半が終了いたしました"という丁寧なアナウンスを受けて、蓮くんと康二を慌てて探す。
向井「ちょっとあれやな、崩せそうやな」
「それ。あとちょっと。まじでちょっと」
向井「ほっぺ大丈夫?血出とるわ」
「大したことない。絆創膏もらう」
声をかけるなんて、おこがましい。そう、蓮くんの世界に入るのはおこがましい。
それくらい、緊張感があって、いつもと違う空気感で、誰よりもかっこよく見えた。
『…………ほっぺ、』
ちょっとだけ切れてるほっぺが痛々しい。でも、マネージャーがすぐに駆け寄ってきて、蓮くんのほっぺに絆創膏を貼っている。
………何か、嫌。
「ざーす!」
マネ「ん。後半頼むよ」
「ういっす」
会話なんて丸聞こえ。すぐ目の前に私が立ってるのに、蓮くんには私が見えていないらしい。
「……A?」
2人に背中を向けた瞬間に蓮くんの声が聞こえた。はっきりと。でも、何か振り返ることができなくて。逃げるように階段を上がる。
………なんだこれ、中学生みたいな嫌がらせじゃん。
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作者名:ぴよまる | 作成日時:2021年2月26日 12時