出来た子にはご褒美を【黄】

Secret thing 12 ページ33

あの日、一時的に行方不明になったAは両親、クロアに一日中怒られ、泣かれ、しばらくの外出禁止を言い渡された。



同時に本を読むことも禁止され刺繍を施したものが部屋の中に積みあがっていく。


ただ、二度とあのようなことはしないと誓った。あまりに軽率だった。

あの日、世界の裏側の片鱗を見た。




私がこうして潰している時間は
恐らくあの場所に生きる人間にとっては喉から手が出るほど欲しい時間であり
けれど、それをどうすることも出来ない。

私が代わりに生きようと、どうしようもないものが横たわっては口を開けている。
飛び越えられない深く大きな溝がそこにはある。


無力を感じる。全てのことは大きな調和のために食いつぶされていく。侵されていく。




読む本もなく、なんとなく家の中を歩き回る。

階下には行く気にはならなかったが
それ以外の場所を生まれて初めてではないだろうかというほどに見て回った。


案外死角が多く抜け出そうだ、なんて以前は思っていたのだろうけれど今は思わない。


家という籠の中が一番安全であるとしみじみと噛み締める。



部屋に戻ろう。
そう思って階段を上がり始めたとき。


上から兄がフットマンを連れ降りてきた。
何も言えず兄とすれ違う。





着飾ったところを見ると父に連れられ社交へ行くようで。
音の鳴る廊下を歩きながら兄とのおぼろげな会話がよみがえった。



【あまり、好きではない】



声を落としてぽつりと漏らした兄の本音。



【兄上の代わりに行けたらいいのに】


【あぁ……お前の方が向いてるよ】


そう言って苦し気に笑った兄と話したのは何年前か。

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