_ ページ10
.
私を夫から拐った日、
目黒くんは何も私に聞かなかった。
「何で浮気されてるなんて嘘ついた?」
「自由がないなんて言った?」
「俺を弄んで楽しかった?」
……そんな風に罵倒されるって私は怯えていたのに。
目黒くんはただ私を拐って、
車をひたすら知らない看板の方へ、知らない矢印の方へと走らせるただそれだけだった。
「………あれ、観覧車…?」
「何、どこ?」
「………あっち、」
「………うわ、ほんとだ」
こんな道から遊園地が見えるのだと、
普通に生活していたんじゃ気がつかないことに気がつき
思わず心が躍る。
もうすぐライトアップでもするのだろうか。
薄暗くなりつつある夕方の空の向こうで光りはじめていた。
「よし、行くか、」
「…えっ!」
「いや普通に行くだろ、」
「…う、そ」
「見つけたAさんが悪い」と笑う目黒くん。
その、不意の笑顔に胸が苦しくなる。
勝手に1人苦しくなる私をよそに、車はあっという間に光の元へと辿り着いてしまって「ようこそ」と笑うスタッフ達に迎えられるままゲートをくぐるしかなくなっていた。
「すっげえ……俺遊園地なんて久しぶりだわ」
「……私も」
「何乗りたい?」
「……え?」
「まだ乗れるやつ乗ろう」
「ほら、」と差し出された手。
差し出したくせに一瞬の躊躇いを見せた目黒くんを庇うように思わずその手を繋いでいた。
ずっと触れないでいてくれたのは分かっていた。
だからこそ、
少し前の自分達がやけに懐かしく感じてしまった。
1度身体が繋がったことさえ忘れてしまいそうになる。
「………行こ、目黒くん」
…………それだけは嫌だと思った。
私は何度だって夫を裏切った。
自分に好意を持ってくれる人を逃したくないエゴの塊で
その度に薄っぺらい嘘がバレて、破綻して、
また新しい寄生先を見つけるひどい女だから
いっそもう後戻りなんかできないほどめちゃくちゃに抱いて。……私なんて。
「高いところ平気?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、観覧車、行こう」
大事になんかしないで。
されたくないの。
私が貴方との居心地の良い関係をぶち壊したんだから。
.
1122人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kae(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、有難いお言葉感謝です😭怪しい彼氏も読んでいただけたのですね!嬉しい…似ているなんて本当に光栄な限りです。はるのちゃんは永遠に憧れの存在です。好き同士だと似てくるんでしょうか?😂こちらこそ読んでくださってありがとうございます!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
kae(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様〜!嬉しいコメントありがとうございます!実は私もまたさせていただけるなら…と期待しつつ🙏悪女について沢山の捉え方とストーリーをご提供できて楽しく書かせていただきました!ユッピン様の応援あってこそです。これからもよろしくお願いします! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、第1弾の方も読んで下さり有難うございます🙇ぜひ今後ともかえちゃん、そしてはるのの執筆活動を応援して頂けるとすごく嬉しいです☺️またお会いできますように…!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様、こちらにも感想を送って下さり有難うございます🙇😂私もコラボを受け入れてくれたかえちゃんには本当に感謝しています😢読んで下さったユッピン様にも、勿論多大なる感謝です🙇いつも素敵なコメントを本当に有難うございます…! (2022年8月25日 22時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - 完結お疲れ様でした。怪しい彼氏に続いて今作も最高でした。共同制作なのに作風が似ていて、とても読みやすくて楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました。今後もお二方の作品楽しみにしています! (2022年8月24日 15時) (レス) id: 990636348e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Haruno x他1人 | 作成日時:2022年8月10日 21時