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車の中でもAさんはよく眠っていた。
もぞもぞと布団の中から蠢いて、
一瞬呆けた顔をして「……おはよ、」と呟く朝だ。
「身体痛くない?昨日結構歩いただろ、」
「うん、…大丈夫、全然へいき」
「そっか。なら良かった」
「……いつから起きてたの?」
彼女を連れ出してしまったあの日からろくに眠れたことはなかった。
朝起きて幻のように彼女が居なくなっているかもしれないと思うと俺には浅い眠りばかりだった。
「職業病。3交代制の、」と言って誤魔化しては笑って
コーヒーを飲んだら彼女は私もコンビニ行ってくると言った。
互いにスマホの充電を切らしたまま。
誰かに行き先を聞かれることも、追われることもなく
今この瞬間を一緒に過ごしている。
この端末の電源を入れたその瞬間、俺たちは一気に現実に引き戻されるんだろう。
「目黒くん、はい」
「え。まじ?……朝から?」
「だめ?朝アイス。美味しいよ、」
俺は無断欠勤し続けている工場から
彼女は何の不義理も働いていない夫から。
こんな風に朝から好きなもん食って、
時間も気にせず
全ての責任から逃れて
行く当てもなく彷徨うことなんか、
非現実だ。
「……ああ、これ、美味いわ」
「でしょ?」
「ほんっと苺好きだな、」
「あのファミレスは明日からマンゴーパフェだって」
「さっきコンビニで誰かが言ってた」と最後の一口を食べて呟いた横顔はいかにもそれを食べたそうだと思った。
「当ててやろっか。食いに行きたいんだろ」
「…いやべつに」
「何その無駄な見栄」
「何も言ってないもんまだ」
「っは、まじ食いしん坊、」
ふいに頭を撫でたくなる。
前は普通にそんなことが出来てしまえていた。
愚かな俺は既婚者だとか関係なしに。
でも、今は違う。
「じゃあ明日な。一緒にマンゴー食おう」
少しだけ嬉しそうに笑う。
抱きしめることなど簡単な距離。
だとしても、彼女が俺に身体を許した日から今日まで
触れたくなる気持ちを必死に押し殺す毎日だった。
「うん、……ありがとう」
彼女を奪って拐ってしまった自分ができる
せめてものけじめ。
不必要に彼女に触れないことが自分に課したルールだった。
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kae(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、有難いお言葉感謝です😭怪しい彼氏も読んでいただけたのですね!嬉しい…似ているなんて本当に光栄な限りです。はるのちゃんは永遠に憧れの存在です。好き同士だと似てくるんでしょうか?😂こちらこそ読んでくださってありがとうございます!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
kae(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様〜!嬉しいコメントありがとうございます!実は私もまたさせていただけるなら…と期待しつつ🙏悪女について沢山の捉え方とストーリーをご提供できて楽しく書かせていただきました!ユッピン様の応援あってこそです。これからもよろしくお願いします! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、第1弾の方も読んで下さり有難うございます🙇ぜひ今後ともかえちゃん、そしてはるのの執筆活動を応援して頂けるとすごく嬉しいです☺️またお会いできますように…!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様、こちらにも感想を送って下さり有難うございます🙇😂私もコラボを受け入れてくれたかえちゃんには本当に感謝しています😢読んで下さったユッピン様にも、勿論多大なる感謝です🙇いつも素敵なコメントを本当に有難うございます…! (2022年8月25日 22時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - 完結お疲れ様でした。怪しい彼氏に続いて今作も最高でした。共同制作なのに作風が似ていて、とても読みやすくて楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました。今後もお二方の作品楽しみにしています! (2022年8月24日 15時) (レス) id: 990636348e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Haruno x他1人 | 作成日時:2022年8月10日 21時