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叙情と最果て[ 🖤 ] / Haruno ページ7

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「………コーヒー飲む?」








助手席に座る彼女は遠く海の方を見ていた。

今にも聞こえてきそうな波の音。

振り返って無言でカップを受け取ると

俺の目を見ないまま視線を下に落とした。









「……海、…好き?」

「……ううん、」

「……そっか。もう少し近くまで行こうと思ったけど」








「ならやめるわ」と言いかけた途端に

でも波の音が聞きたいかも、とぽつり呟いた彼女。









「……出して。車、」








言われるがまま

立ち寄った道の駅を離れて青い海に誘われていく俺たち。








かつてここにあったはずの、

他愛もなかった2人の空気はもう色を変えた。









奪ってはいけない手を握ってしまった。

伸ばしてやっと掴んだ手には指輪があった。

彼女も1度は俺に応えてくれた。

誰かを傷つけてもあの瞬間だけは幸せだった。









彼女を旦那から奪って逃げて、逃げて、

今何がしたいんだと言われても俺にもわからない。










「あ……潮の香り、」










窓から吹き込む冷たい風に
髪を靡かせながら彼女はようやく笑った気がした。






なんだ。

海、好きなくせに。無理してたのかよ。






つられて俺も笑った。

ひたすら知らない方へと車を加速させ続けて
やっと今日、行き先を見つけた気がした。











「なあ、泳げるの?」

「一応……今はどうかわからないけど」

「ふは、泳いでみる?」

「ばか。何言ってんの、」









パンツの裾を少し捲って2人で砂を踏んでいく。


その小さな足跡を辿るように後を付いていくと
彼女の柔らかい香りが風にのって届いた。








ぎゅっ、と胸が苦しくなる。








ああ


早いって。無茶すんな、危ないから。


ほら、転ぶって。












「………ひゃ、」











気づいたら駆けていた。


柔らかな砂の上に尻餅をつく彼女は驚いてそのまま。


「大丈夫?ほら、」と無意識に手を伸ばしていた。


そんな俺を彼女は眩しそうに見上げて。











あの日から触れるのを避けてきた手と手は

さらさらな砂の感触を乗せて繋がれた。











「……ありがと、」

「…」

「…」

「……ふ、」

「……なに、…ね、何で笑うの?」











何でもない





俺らがただの職場の同僚で、


正社員とパート、


年下の先輩と年上の後輩、独り身と主婦、


ただファミレスで飯を食う間柄だった頃が少し






懐かしくなっただけ。







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設定タグ:SnowMan , 短編集 , オムニバス   
作品ジャンル:恋愛
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kae(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、有難いお言葉感謝です😭怪しい彼氏も読んでいただけたのですね!嬉しい…似ているなんて本当に光栄な限りです。はるのちゃんは永遠に憧れの存在です。好き同士だと似てくるんでしょうか?😂こちらこそ読んでくださってありがとうございます!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
kae(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様〜!嬉しいコメントありがとうございます!実は私もまたさせていただけるなら…と期待しつつ🙏悪女について沢山の捉え方とストーリーをご提供できて楽しく書かせていただきました!ユッピン様の応援あってこそです。これからもよろしくお願いします! (2022年8月25日 23時) (レス) id: ae2feaf230 (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - 紫陽花さん» 紫陽花様、第1弾の方も読んで下さり有難うございます🙇ぜひ今後ともかえちゃん、そしてはるのの執筆活動を応援して頂けるとすごく嬉しいです☺️またお会いできますように…!! (2022年8月25日 23時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様、こちらにも感想を送って下さり有難うございます🙇😂私もコラボを受け入れてくれたかえちゃんには本当に感謝しています😢読んで下さったユッピン様にも、勿論多大なる感謝です🙇いつも素敵なコメントを本当に有難うございます…! (2022年8月25日 22時) (レス) id: dbb7f3d4be (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - 完結お疲れ様でした。怪しい彼氏に続いて今作も最高でした。共同制作なのに作風が似ていて、とても読みやすくて楽しませていただきました。素敵な作品をありがとうございました。今後もお二方の作品楽しみにしています! (2022年8月24日 15時) (レス) id: 990636348e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Haruno x他1人 | 作成日時:2022年8月10日 21時

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