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大貴side
「心のお勉強ね。了解しました。」
じゃあまずは侑李の心の中を覗いてみましょう。
そんなことを言ってみたりしてパルスオキシメーターのついた侑李の手を心臓付近に持って行かせる。
心臓の音を聞いて、心を落ち着かせるのが狙いだ。
「どう?心の中覗けた?」
「…あんまりわかんない、」
「そっかわかんないか。侑李の心の中は今色々ぐちゃぐちゃになっちゃってるんだな。」
「……分かんないの。ボクもう分かんなくなっちゃって」
戸惑うように顔を暗くした侑李に俺は動じたりなんてしない。
そっと、手を握り一緒に答えを出そうと試みる。
「じゃあ、今はどんな気持ちかな?」
「……大ちゃんに会えて嬉しい気持ち」
「そっかそっか、それは俺も嬉しいな。」
「でもね、ボクいけないこと思っちゃう嫌な子なの、」
視線をそらしてそう言った侑李はみるみるうちに瞳に涙を溜めた。今にも決壊しそうなそれを見守りながら再びゆっくり背中をさする。
呼吸が乱れては授業は持続不可能だ。
「この世に嫌な子なんてないよ。例えばお金を盗んじゃう人。この人は生活が苦しくて家族のために犠牲になっていたり。周りの人の手助けがなくて悩んだ末にお金を取っちゃうんだ。」
「お金を取っちゃう人は嫌な子じゃないの?」
「嫌な子でも悪い子でもないよ。たまたま生まれ育った環境が悪かったり、頼れる人がいなかっただけなんだ。」
興味深そうに話を聞く侑李はどこか生き生きとしている。
彼は心理学が案外好きだったりもするのだ。
定期的に開催される心の勉強会にも欠席した数より出席した数の方が多い。
「ゆーりは、自分のどんなところが嫌な子だと思うの?」
「…ボクのこと嫌な子って言わない?」
「言わないよ。約束。」
「あのね……」
そう口を開いた侑李はボロボロと涙をこぼしながらこう口にした。
死んじゃいたいと思うということ。
治療なんて辞めたいと思ってしまうこと。
どれも嫌な子なんかじゃない。
彼の人生を考えれば真っ当な理由だった。
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新道踏切(プロフ) - 面白くて一気読みしてしまいました!またの更新待っています(*^^*) (2020年12月4日 16時) (レス) id: 7158c48a17 (このIDを非表示/違反報告)
ちる - すごくいい話ですね!期待してます! (2020年3月8日 0時) (レス) id: 86380dcbb6 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - ちねんさんのお話を検索してこちらの小説を見つけました。続きを楽しみにしています! (2020年3月2日 16時) (レス) id: cf2ae7ce49 (このIDを非表示/違反報告)
はなん(プロフ) - 面白いお話ありがとうございます 続きを楽しみにしています! (2020年2月26日 19時) (レス) id: 039a9f3787 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱむこ | 作成日時:2020年2月20日 21時