(Fischer'sのお話) (ページ9)

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(マ) それは甘美な、① ページ9

※ 吸血鬼パロ。苦手な方ご注意ください。

私は、人間ではない。空想上の生き物だと思われている存在、吸血鬼(ヴァンパイア)だ。けれど、無差別にヒトを襲ったりはしないし、吸われた人間が吸血鬼になることもない。
もちろん、血を吸わないと生命活動が維持出来ないから定期的には血を頂く必要はあるけど、一族が用意したヒトから吸うことになっている。吸血鬼が人間界で生きる、そのための決まりごと。

「……お腹空いたな、」

定期的に飲んでいても、吸血鬼によって空腹のタイミングはそれぞれ違うから、次の吸血の日まで持たないことがある。今の私がまさにそれ。
ヒトの食べ物は美味しい。ハンバーグとか、グラタンとか。しかしそれでは、満腹感は得られるが本能が満たされない。

「あ……、あの人美味しそう、」

だが、ここで往来のヒトを襲ったらどうなる。
秘匿とされている私達の存在が明るみになり、最悪、害を成すものとして滅ぼされるかもしれない。まあ、ヒト程度の力では私達には及ばないが、無駄な争いは避けたいのだ。

「………………、」

ここまでくると、ヒトがみんなご馳走に見えてくる。道行く人、全てが美味しそうで堪らない。本能が剥き出しになりそうになって、押し込めた。
本家に行けば、吸血周期を早めてもらえるが、今の時間は深夜で本日の営業は終了している。吸血鬼なのに、本家の就寝時間はヒトと大差ない。

往来の少ない道端に座り込み、ため息を吐いた。早く家に帰りたいところではあるけど、空腹をどうにかしたい。お腹が空き過ぎて、歩きたくない。
仕方ない、知り合いに連絡して迎えに来てもらおう。そして緊急処置として、血を貰おう。吸血鬼同士なら吸ってもお咎めはないけど、普通なら飲みたくないほどに美味しくない。できるなら飲まない方向でいきたいくらいだ。