(Fischer'sのお話) (ページ8)

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(マ)お隣さん！③ ページ8

「布団、取ってこようと思ったんすけど、」
「…いい、いらない、」

繋いだ手に、擦り寄ってくるAさん。やっぱり、元彼と間違えてるのではないだろうか。据え膳喰わぬは男の恥、という言葉があるのを知っていますか、Aさん。思わず、前言撤回したくなってしまう。

飢えてんのか、俺は。

「ごめんね、マサイくん。」
「…そう思うなら、自分の部屋戻れますよね？」
「……やだ。だって、さみしいもん。ここで寝る。」

涙で潤んだ瞳に見つめられ、俺は生唾を飲み込む。

「…俺が男だって分かってます？」
「……分かってるよ、」
「まあ、俺は付き合ってる人いないんで、甘えたいなら、……どーぞ？」
「……ふふ、酔ったせいにしておいてくれる？」

―――そして、今に至る。

「でもまあ、よく酔っ払い相手にしてくれたよね。」

マサイくんは覚えているようだけど、正直な話、わたしの記憶は断片的で、覚えていないところもある。
次の日の朝、起きたらマサイくんが隣で寝ていたことに飛び上がるほど驚いたことは鮮明に覚えている。しかもマサイくんの布団で。

「あのときは本当、一線越えたのかと思ったよ……。」
「さすがに酔っ払い襲うなんてできねえわ。キスはいっぱいしたけど。……今だって、」

ちゅ、と軽く唇が合わさる。

「っ、ああもう、恥ずかしい。」
「…寂しくないだろ？」
「そうだね、お陰様で。」

相手をしてくれるのはあの日だけ、と思っていたのに、数日後、ポストに鍵と手紙が投函されていたのは衝撃的だった。

『合鍵あげるんでいつでもどうぞ。あ、なくさないでくださいね。マサイ』

マサイくんのことが忘れられず、もだもだしていたわたしは、その鍵を持ってすぐにお隣へ行ったのだ。

「でもいいの？わたしが引っ付いてたら彼女できないよ？」
「別に。Aさんのコーヒー美味しいし、料理も上手いし。彼女にするならAさんみたいな人……あ、でも、酔って他人に迷惑掛けない人がいいわ。」
「その節は本当に……！」

申し訳なさから、床に頭をぶつける勢いで土下座をする。頭上からはマサイくんの笑い声。

あのとき、マサイくんと出会っていなかったら、多分わたしは、こんなに立ち直れていなかったと思う。次に付き合うならマサイくんのような、いや、マサイくんがいい。なんて、思ってみたりする、或る日の昼下がり。

«とりあえず、おしまい»
中編くらいの長さにしようか迷う感じ。とりあえず一区切りにします。