(Fischer'sのお話) (ページ11)

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(マ) それは甘美な、③ ページ11

空腹で思うように力が入らない足に鞭を打つように立ち上がり、力を振り絞って、マサイくんの胸元を掴む。突然の事に上手く対応出来ず、マサイくんはされるがままに私の方へ引き寄せられた。

「いただきます、」
「っ、お前、」

首筋にキス一つ落として、噛み付いた。傍から見たら、抱き合う男女にしか見えないだろう、そっとマサイくんの背中に腕を回した。

これ以上貰ったらマサイくんが死んでしまう、そんなギリギリのところで牙を抜く。

「ごちそうさま。……ごめんね？」
「お腹空いた、って……そういうことかよ。吸血鬼ってマジでいるんだな。」
「あれ。あんまり驚かないの？吸血鬼に血吸われたんだよ？」

普通の人間なら、恐怖のあまり逃げるとか泣き出したりするのに。

「確かに驚きはしたけど……、吸血鬼ってもっと怖いもんだと思ってから。」
「え、怖くない？これからマサイくんの記憶消そうと思ってるって言っても？」
「それは怖いわ。記憶消すなよ、Aさんのこと忘れたくないし。血なら言ってくれればいつでもあげるけど？」

舌先に残る血の香りを味わいながら、考えた。いつでも血をくれるという、私にとっては好都合な人間が現れてしまった。しかし、番以外の血を吸うことは本来であれば処罰の対象になる。空腹に耐えかねたとはいえ、私も罰せられるべき存在である。そうなるのを避けるために、記憶を消したかったのだけど。

「本当なら、結婚しないとヒトから血を吸っちゃいけないの。私達の存在が露呈しないためにね。」
「けど、Aさん、俺の血吸ったじゃん。」
「お腹空いて倒れそうだったんだもん。それもこれも、迎えに来てくれなかったあいつのせい……。」

今頃ベッドで寝ているのだろう、知り合いを思い浮かべて拳を握った。今さら言ったところで、この事態が収束するわけではない。本家に報告するべきなのだろう、ああ、頭が痛い。

「んー、じゃあ、結婚する？」
「……え？」
「とは言え、お互いのこと知らないし、婚約ってことでどう？」
「ままま待って！そんな簡単に決めることじゃないって！頭大丈夫？！」

このまま押し切って記憶を消してしまえばいい、それは分かっているけど、なんとなく、躊躇っている自分がいた。

「Aさん可愛いし。それに、吸血鬼の旦那とか面白そうじゃん。」
「っ、吸血鬼同士の争いに巻き込まれることもあるんだよ……！」

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収拾つかないので、切ります。