第122話 ページ27
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楸「____絳攸」
楸瑛は立ち尽くしている友人に声をかけた。
振り返った絳攸には表情がなかった。
楸「香鈴の容態は?」
絳「……気づくのがあと少し遅かったら、死んでいた」
目の前に横たわる少女の青白い顔。
その目尻からこぼれた涙のあとが、まだ乾かずにあった。
騒ぎのあと、自分の失態が茶太保の野望を露見させたと知って、見張りの衛士の目を盗んで香鈴は手首を切った。
文机の上にきちんと置かれた書状には、全ては自分が一人でなしたものだという文面がしたためられていた。
茶太保には何の罪咎もない____と。
絳攸はその書状をきつく握り込んで、吐き捨てるように言った。
絳「……だから、女は馬鹿だっていうんだ。何一つ分かっちゃいない」
絳「なんで茶太保が自分を巻き込まなかったのか____その意味すら考えず、一人で突っ走って、あげくに後追いか」
死にかけていたところを拾われ、後宮の女官にあげられるほどの教育を受け____そうまで大切にされて____。
楸「香鈴は、君とよく似ているね」
楸瑛は静かに呟いた。
楸「幼い頃に拾われ、大切に養育され、そして……拾い主をどこまでも敬愛しているところが」
白くなるほど絳攸の拳が握りしめられる。
楸瑛はその腕をとって自分の方へ引き寄せた。
楸「……でも、同じじゃない」
楸瑛は囁く。
楸「君が一人で突っ走りそうになったら、私が止めるからね。迷子になった君を連れ戻すのは、初めて会った時から私の役目のようだから」
絳攸は楸瑛の軽口にも反発せず、その肩に額をもたせかけた。
ぐっと奥歯をかみしめる。
絳「……馬鹿な女だ」
大切にされていた。
だから秀麗のそば近くにありながら、茶太保は香鈴を計画に巻き込まなかった。
後宮に一度あがればどんな嫁ぎ先も思いのままだ。
たとえ、自分の計画が露見しても、香鈴には____
と、その思いも知らず。
道連れなど望んでいなかった茶太保の意図も汲めず。
香鈴は。
それでも、絳攸には分かってしまうのだ。
香鈴の必死な気持ちが。
大切にされていても、それと同じくらい、相手のために何かをしたい____そう思う気持ちが。
絳「……捨てられた者にとっては、拾ってくれた者は絶対の存在なんだ」
硝子玉のような瞳で、絳攸はぽつりと呟いた。
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咲くや - 面白くて続きが気になります 更新頑張ってください。 (2021年4月30日 0時) (レス) id: 2369d330ed (このIDを非表示/違反報告)
フローラ(プロフ) - ラフェルさん、ありがとうございます!!更新できなくてすみません。時間が無かったり、学生として忙しかったりするので、なかなか出来ていないのが現状です。申し訳ありません!出来るだけ頑張ります。 (2020年6月22日 14時) (レス) id: 81545e79a5 (このIDを非表示/違反報告)
フローラ(プロフ) - すみません、分かりにくかったでしょうか?オチは決まっているので、お話が進むのをもう少し待っていただけると嬉しいです (2019年6月1日 8時) (レス) id: 36855b5a89 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ - オチは決まってるんでしょうか?なんだか先が見えなくてモヤモヤします。 (2019年6月1日 7時) (レス) id: e7610b422d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フローラ | 作成日時:2019年4月20日 16時