第36話 ページ39
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木々の奥____大きな池のほとりに秀麗が腰をおろすと、男もその隣に座った。
さわ、と春先のやや冷たい風が通り抜けていく。
風の感触に目をつぶると、ぱた、と秀麗は仰向けに寝転がった。
ひらひらと降ってくる、それは桜の花びら。
秀「……私の家はねぇ、とっても貧乏なの」
鼻先に乗った桜の花びらをつまむと秀麗は見惚れるように眺めた。
秀「紅家っていっても、本家に追い出されるようにして紫州にきたし、父様ったら笑っちゃうくらい世渡り下手で、……母様も世事に長けてるとは言い難かったけど、母様が亡くなってからはほんとあっという間に家は貧乏になっちゃってね」
秀「残ってくれた家人は静蘭だけだった」
男はふと顔を上げ、静蘭、と繰り返した。
秀麗はその呟きに微かに笑った。
秀「どっかで会ってるんじゃないかしら?」
秀「この間特進して左羽林軍主上付きに配属されたから、中央宮にいることが多くなったみたいだし」
秀麗は自分の手を空にかざした。
高貴なる姫には決してありえない、節くれだった指。
いつも赤ぎれだらけだった手のひら。
秀「……毎日毎日、たくさん働いたわ」
秀「だから私の手は全然、お姫様みたいな白くて細いすべすべの手じゃなくて。」
ふと、自分の手を見るA。
そんなAに気付いた秀麗。
秀「ごめんなさい、Aたちを悪く言っているわけでは無いの」
名「ううん、心配しないで」
秀「ありがとう。でもね、見るたびに溜息つくのよね。嫌いよ、こんな手」
秀「……でもね、いいの。父様と静蘭と私の三人で暮らしていけるなら。全然構わなかった」
いつだって貧しくて、食卓は寂しかった。
朝から晩まで働いて。
でもやっぱりいつも貧乏。
秀「貧乏は慣れてるわ。でも、絶対、こんなのもう二度と耐えられないっていう、最悪に辛い時があったわ」
秀麗は、目をつぶった。
秀「……八年前の、王位争いの時よ」
男はゆっくりと秀麗は見下ろした。
秀麗は淡々と続けた。
花びらが、降ってくる。
秀「前王がお倒れになってから、朝廷は王位争いで政事は荒れたわね」
秀「城下に住む私たちはその余裕をもろにくらった」
秀「心ある官吏の命は到底私たちまで行き届かなかった」
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フローラ(プロフ) - かなとさん、ご指摘ありがどうございます! (2019年2月27日 18時) (レス) id: 36855b5a89 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - オリジナルフラグをお外し下さい (2019年2月27日 18時) (レス) id: 32a3956d03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フローラ | 作成日時:2019年2月27日 17時