春待ち桜 (ページ39)

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染色月ページ39

出ないかもしれない

呼び出し音が、一回、二回...

でも、何となく繋がるような気がした

五回目のコール

「...はい。」

いつもと同じ、愛想も愛嬌もない声で電話に出た君に

「話しがしたい。」と端的に言うと

「話すことは、ありません。」と端的に返された

いかにも君らしいな、とほくそ笑みながら

「式のキャンセルのこととか、招待状のこととか。」と最もらしい言葉を並べて

「それは...」

「話さなきゃならないことは、沢山ある。」と食い下がると

やや暫く沈黙のあと

「いつですか？」

そう諦めたように言われた

.

.

初めて会った日のことを思い出す

大きな窓から見える桜はまだ蕾が目立つが、いくつかは綻びかけている

たかが一年のことなのに、あの日と同じ景色に懐かしい気持ちになった

昼下がりのラウンジは人が疎らで、ゆったりと流れる時間の中で君を待つ

約束した時間より少し前に現れた君はすぐに俺に気付いて、ゆっくりと近づいてきた

運ばれてきたコーヒーカップを挟んで、向かい合う

君は瞳を伏せたまま、口を開く意思はないようだ

そんな君の胸元には星のネックレスがあって、つい頬が緩みそうになるのを堪える

「ありがとう、来てくれて。」

あんな別れ方をしたあとなのに、不思議なくらい穏やかな気持ちだ

それは、自分の中で確たる答えが見つかったからなのかもしれない

「傷付けるつもりはなかった。でも、結果的には傷付けてしまった。ごめん。」と謝ると

「私の方こそ、嫌な言い方をしてすみませんでした。」と小さな声で謝った