春待ち桜 (ページ35)

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「話したいことがある。」

そう言った時も

「これでいいの？」

そう言った時も

君はまるで、こうなることを予想していたかのように、表情ひとつ変えなかった

「何がですか？」

「今なら、まだやめられる。」

「やめたいのは、櫻井さんの方じゃないんですか？」

「どういう意味だよ。」

「そのままの意味です。」

君のためと思って言った言葉をそのまま返されてしまい、本当に意味が分からずにいると

「百合さん、お綺麗な方ですね。」

一気に血の気が引いていくのを感じた

「会ったの？」

動揺を隠しきれない声をしていたと思う

「他の人と結婚していても諦められないほど大切な人なのに、どうして私と結婚しようと思ったんですか？」

君の言わんとすることを理解し、でも、その真意を掴めず戸惑う

「上司の顔を立てるため？出世のため？」

それとも、と続けて

「彼女を忘れるためですか。」

それは違う、と言いかけて

言ったところで信じてもらえないだろうし、それに値するようなことを散々してきた自分を、今更ながら恨んだ

それに、この誤解が解けたとしても

「それは、君だろ。」

君の気持ちが此処にはない時点で、何の意味も持たない

「話をすり替えないでください。」

「じゃあ、君はどうして俺と結婚しようと思った。距離を置けば、忘れられるとでも思った？」

冷静を保っていた表情が変わる

「そんなの、根本的な解決にならない。」

「どういう意味ですか。」

「その人と、離れることはできないよ。君たちには、持って生まれた絆があるだろ。」

瞬きをして、瞳を伏せる

長い睫毛が微かに濡れている

「櫻井さんは...」

言いかけて、口を噤む

「この結婚は、白紙に戻しましょう。契約は、終わりです。」

君がひた隠しにしてきたことを、晒すつもりはなかった

このまま、何事もなかったことにして結婚することもできた

何より、あんな風に傷付いた顔を見たかったわけじゃない

部屋を出ていく君を、強引に抱き寄せれば良かったのだろうか

いや、そんなその場凌ぎでは解決しない

でも

大きく息を吐き、掌を見つめる

自分から離してしまった、この手を

「櫻井さんは...」

君はあの時、何を言いかけたのだろうか

俺は、君が思ってる以上に君のことを...