春待ち桜 (ページ32)

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雪消月ページ32

「二宮先生、御面会の方がいらしてます。」

デスクトップから顔を上げて視線をずらすと、全く見覚えのない女性が立っていた

でも、彼女が何者なのか

直感としか言いようはないが、多分、そうだろうと思った

「二宮は私ですが。」

「思ったとおり、綺麗な人ね。」と名乗りもせず、嬉しそうに笑った

ゆっくりお話しがしたいの、と言われ院内のカフェに場所を移す

「櫻井さんの恋人ですよね。私にどのようなご用件ですか？」となるべく平静を装い尋ねる

「察しが良いのね。」

大袈裟に驚いた表情を作る

恋人、は否定しないのだな

「単なる好奇心よ。翔と別れて欲しい、なんて言わないから安心して。」

そう楽しそうに話す彼女の方が、よほど綺麗だと思う

居心地が悪くて、思わず目を伏せた時

ふと、彼女の左手が目に入った

「ご結婚なさってるんですか。」

「そうよ。」

見せつけるように左手を上げる

「じゃあ、どうして櫻井さんと？」

少し考える仕草をして

「道ならぬ恋ってやつかしら。」

と、悪怯る様子もなく答えた

「それほど好きなら、ご主人と別れて一緒になれば良いのでは？」と皮肉を込めて言ってみたが

「分かってないのねぇ...」と頭を振り、上手くあしらわれてしまったように感じた

「あなたは、どうして結婚しようと思ったの？」

急に話題を変えられて、ペースを乱される

どうして結婚しようと思ったのか？

初めは断るつもりだったのに

結婚する気なんてなかったのに

どうして

「成り行き、でしょうか。」

契約です、とは言えなかった

言いたくなかったのかもしれない

でも、どうして、に答えられるほど明確な理由もない

ただ、何となく、一緒にいる

それだけでは、不十分なのだろうか

「成り行きねぇ。」

あまり納得していないような表情を見せたかと思うと、何か思い付いたような表情に変わる

表情豊かな彼女を見てると、私とは真逆だな、と思った

きっと、そんなところに、彼は惹かれているのだろう

「でも、翔は、あなたが思ってる以上に...」

思っている以上に

「この先は言わないでおくわ。いずれ、分かるから。」

思っている以上に

彼女のことを愛している、と言いたいのだろうか

最後に微笑んだ彼女の顔が、頭から離れなかった