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「ここよ。篠宮さんがかつて暮らしていた部屋」
「すごい。きれいだし、何より全部そろっていますね。」
男子でも女子でも使えるようにするためになのか、白をベースにしていて、ポイントに黒があしらわれている部屋は、どこか安心感を覚えた。
勉強机の前は出窓になっていて、そのでっぱりの部分には小さめな観葉植物が飾られている。
「…篠宮さんは、なんの記憶を失ったの?」
幸村先生の疑問は間違っていないと思う。
今でも私はQuizKnockの一員として知識をふんだんに使っているし、ぱっと見では、なんの記憶も失なっていないだろう。
拓司が言いかけたのを、私は手で制した。
「両親です」
「…え?」
私の発言に、先生が目を丸くさせる。
「両親の記憶が、ないんです」
私がそう言うと、先生は考えるように顎に手を当てる。
「記憶を取り戻すのは、オススメできないわね」
「…っ、先生」
わたしの記憶が正しければ、先生は生徒想いの優しい人だ。
「…どうして、ですか?」
拓司は私の隣に座って、何も話さなかった。
全部知っているのに、こんなに一緒にいてくれる彼氏なんて、きっと探しても彼くらいだろう、なんてのろけを心の中で挟みながら、先生の紡ぐ言葉に耳を傾ける。
「あなたが東大を目指した理由は、あなたのご両親にあるからよ」
よくある圧迫する両親で、東大以外は許さないとでも言う親だったのだろうか。
この南雲高校も、地元では有名な中高一貫校らしいし。
「“教師”である以上、私はこれ以上言えないわ。」
「そんなっ、先生!」
“あなたからも説得して頂戴”
そんな目で、幸村先生は拓司を見ていた。
拓司はその目線をまっすぐに受け取る。
…この高校が、両親のことを探る唯一の手掛かりであったというのに。
これ以上は、無理なのだろうか。
「では、Aとあなたが“教師”と“生徒”でなければ、教えてあげるんですね?」
拓司の口から紡がれた言葉たちは、私の、私たちの予想を超えていた。
頷く幸村先生の前に拓司は変わらずまっすぐな目で訴える。
「じゃあ、学校ではない場所でお会いしましょう。この近辺で個室の取れる居酒屋は?」
「…っ、あなた、知らないn…」
「知ってますよ。Aの両親のことなら」
“じゃあなんで!”
そう叫んだ先生の前でも、拓司は冷静だった。
「知りたいと強く願う人の邪魔なんてできませんから」
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虹希(プロフ) - sekainoowarilovさん» 期待以上のストーリーに仕上げることができていたでしょうか。それなら本当にうれしいです。話のまとまり出会ったり、収束が付いていないのではないかと不安だったので…。これからも虹希を応援していただけると嬉しいです。 (2020年1月6日 17時) (レス) id: 637c3be836 (このIDを非表示/違反報告)
sekainoowarilov(プロフ) - リクエストありがとうございます!!期待してた以上に素敵な作品でほんとうに、素敵です(語彙力) (2020年1月6日 17時) (レス) id: 8cc800abef (このIDを非表示/違反報告)
虹希(プロフ) - 京北わかさん» ご期待に添えていたら幸いです。これからも虹希を応援していただけると嬉しいです! (2020年1月6日 13時) (レス) id: 6f6e5985a0 (このIDを非表示/違反報告)
京北わか(プロフ) - リクエスト書いていただきありがとうございます!とっても良かったです! (2020年1月6日 9時) (レス) id: 4e915e623c (このIDを非表示/違反報告)
sekainoowarilov(プロフ) - 虹希さん» 虹希さんのかわかみかっぷるなども拝見していてほんとうに毎日ニヤニヤしているのでこちらこそありがとうございます!! (2020年1月6日 8時) (レス) id: 8cc800abef (このIDを非表示/違反報告)
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