こだわる理由はきっと_k-chan ページ19
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【ご乗車ありがとうございました。館林、館林でございます。お忘れ物にご注意ください】
浅草から乗ってきたそれを降りると、高校生時代、飽きるほど見てきた景色が視界に入ってくる。
「…相変わらず風強いなぁ…」
赤城颪とはよく言ったもので、群馬県の北風は変わらず俺を倒しにかかっている。
小学生の時の俺はこんな風の中サンタさんはソリに乗って来るのか、すごいな、大変だななんて思っていた。
「…あれ、A?」
「あ、こうちゃん。久しぶり」
改札を通ってすぐ、父が迎えに来ていると言っていた場所にいたのは、父親でも母親でも弟でもない、幼なじみのAだった。
「Aも帰ってきてたんだ」
「たまには帰ってこいって父が」
“確かに大学行ってから帰ってきてないからな”
そうこぼしたAに思わず目を見張った。
「え!1回も?!」
「だって…九州からだと飛行機使わなきゃいけないし、面倒なんだもん」
そういえば、彼女は九州大学に進んだんだった。
東大や京大にだって入れる成績を誇っていたのに、敢えて。
「この前Aに会った人いるじゃん」
「あー、伊沢拓司さんのことね」
俺が頷くと、彼女は“彼がどうしたの?”と続ける。
「Aに入ってもらいたいって」
「…多分、私はコンセプトに添えないって言っておいてくれない?」
俺は、伊沢さんの提案に賛成していた方の身。
そんな仕事は請け負えないと首を横に振る。
「日常から学びを見つけるなんて、頭の硬い私には難しいよ」
彼女の目は、どことなく憂いを含んでいた。
「そういう所が向いてるんだけどな」
自分の間違いや知らないことを素直に言えるところが、知を深めるための第一歩なんだよ。
「こうちゃんがそこまでこだわるなんてめずらしいね」
彼女の言葉に、今度は俺が胸を撃たれた気分になった。
俺が、ここまでこだわる理由は、きっと。
サンタからの贈りもの_izw→←僅かな確率にかける想い_trsk
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