Another Story

井上咲様リク 熱い頬は君のせい＿kwkm ページ18

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「流石だなぁ、拓朗」



Aが息を漏らした。



先程から俺にタッチの差で負けている。



伊沢さんなんかは“十分Aも凄いけどね”と拗ねたように言う。



「私なんてまだまだです！嫌ですか？」



そう言って笑った彼女に俺も思わず賛同してしまう。



伊沢さんの知識量に俺たちは到底敵わない​───それを知っているから。



「慰めありがとう」



イマイチ信じてもらえてないけど、まぁそれもそうか、なんて息を吐いた。



伊沢さんは大の負けず嫌いだし、俺達も伊沢さんに追いつくために…そのためだけじゃないけど、頑張ってきたし。



「私も取りたいなぁ」

「Aは解けてるじゃん」

「伊沢さん多分難しく考えすぎなんですよ」



“えー”とホワイトボードを机の上に放り投げた伊沢さんは“解説よろしく”とAにそれを突き出した。



「例えばこれ。なんで積分してるんですか。これ小学生宛の問題ですよ。」

「桜蔭ならやってくるかなって」

「私どんな難関校突破したことになるんですか。いや確かに積分すれば求められますけど。」



“あはは、やべ”と言った伊沢さん。



やっと彼らしさが出てきた。



「それじゃあ次行くよ」



福良さんの呼びかけに答えるようにペンを握った伊沢さん。

ここからは本当に際どい勝負になる、そう思いながら俺もペンを握った。



「…勝てない…」



ペタン、と机に突っ伏したA。

最後の最後まで後一歩、俺や伊沢さんに届かなかった。



トータルすればAが1番すごいんだけどね。
全部をそれなりの速さで解けてるわけだから。



「でも彼氏である川上のかっこいい所いっぱい見れたでしょ？」

「拓朗はいつでもカッコイイです」



無自覚にサラッと言ってのけたその台詞に、思わず頬が熱くなる。



「それに」

「それにー？」



ちょっとだけ言葉に詰まっていたAだけど、ハッキリ、俺の耳まで届く声でこう言った。



「…カッコイイところ、あんまりたくさんYouTubeに流しちゃうと拓朗盗られるかなって」



恥ずかしそうに頬をかく彼女。



今度は間違いなく、俺の頬が熱くなった。



「へー、相変わらずベタ惚れですねー」

「伊沢さんうっさい！」



Aが伊沢さんに、からかわれるのをBGMに俺は頬の熱が冷めるのを待った。

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