Accueil【伊沢拓司】 (ページ23)

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渡辺side

「こうちゃん、こうちゃん」

「ん、どうしました？」

Aさん用に椅子を退けたスペースで、彼女は以前と変わらず猛スピードでタイプしていた。

「ここの言い回しどう思う？」

彼女が言うには、難しすぎるかもしれないから確認して欲しい、ということ。

「んー…これをちょっといじればもっと楽しい記事になると思います。例えば…」

俺は彼女の隣に席を移し、彼女のパソコンの画面を覗き込んだ。

「あ、本当だ。一気にわかりやすくなった」

“すごい”

そう言って朗らかな笑みを零す彼女に思わず目を奪われてしまった。

「あれ、Aとこうちゃん。校閲中？」

「うん、私の力だと難しくなりすぎちゃってこうちゃんの力を借りてた」

「そっか。納得のいく物になりそう？」

「うん、出来たらちゃんと編集長(拓司)に上げるから待ってて」

そんな彼女に惚れてしまった伊沢さんを始め、須貝さんと川上さん、そして山本さんの気持ちがなんとなくわかってしまった。

「こうちゃんは何してたの？記事上がってたからさっき確認したけど」

伊沢さんの俺にそう言ってきた目はどこか殺気がこもっていた。

Aさんのこと本当に好きなんだ、そう思いながら俺は俺のパソコンを指さした。

「すみません、大学のレポートやってました」

“順調？”

俺の返答にそう返した伊沢さんに向けて俺は頷いた。

「そう、聞こうと思ってたんだよね、何かあったの？」

…言えるわけないでしょ？

貴女に関する恋愛関係で悩みまくって1人になりたくなかった、だなんて

「ちょっと1人になりたくなくて」

福良さんに昨日言ったように返すと、2人とも納得したのかそれ以外は踏み込んでこなかった。

相変わらず居心地のいい場所だ、そう思いながら俺はパソコンに向き直った。