Accueil【伊沢拓司】 (ページ16)

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川上side

「ただいまー」

玄関から伊沢さんの声が聞こえると、すぐにそちらへ向かうAさん。

自らの手で車椅子を押してまで、その人に会いたいのかと思うと、少しだけ胸がいたんだ。

「おかえりなさい」

「なんかいいね、それ。夫婦みたい」

伊沢さんの満更でもなさそうな声に少しだけ苛立ちを感じてしまった。

「お疲れ様です」

「あれ、川上だけだったんだ」

「…さっきまで、山本と志賀と山上がいました」

あの言葉を言った時の伊沢さんの目の殺気に思わず身震いしてしまった。

それを彼に察せられると困るので、俺は笑顔で誤魔化す。

「須貝さんは？」

「教授に呼び出されていたからそっちに行ったよ」

恐らくこの言葉を要約すると〘Aと二人きりにしろ〙だ。

俺はそんな伊沢さんをちらりと見ると、そのままノートパソコンをリュックに詰め込む。

「じゃあ、お疲れ様でした」

「おつかれー」

伊沢さんの声を背中に聞きながら俺は靴を履くために玄関に出る。

「あ、拓朗」

「なんですか？」

さっきまでは急いでいたのに、彼女の声を聞くだけで立ち止まってしまう自分を嘲笑した。

「今日はありがと」

ニコリと微笑む彼女に、変わらず胸が高鳴る自分にため息すら出てしまう。

「…俺も、楽しかったですよ」

Aさんの幸せそうな顔を見るだけで、俺は幸せなんだ。

高望みなんて、してはいけない。