Accueil【伊沢拓司】 (ページ11)

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川上side

「あれ、拓司から？」

俺と二人でいることが気がかりなのか、彼女の携帯から着信音が鳴り響いた。

俺に気を使ってか、イヤホンを差し込み、その片割れを俺に差し出してきた。

それは多分、遠回しにだが、プライベートな話をするつもりはないという意思表示だろう。

「はい、どうしたの？」

『どうしたの？はこっちのセリフ！！何してんのお前ら？！』

“お前ら”

その発言に俺は思わず眉根を寄せる。

彼女がこういった行動をとることを予測していたのだろう。

「さっきまで一緒にクイズしていたんです」

『あー…なんだそういうこと…ってならねぇよ！！なんで一緒にランチ行く流れになったんだよ？！川上今日講義は？！』

俺の発言に対してまくし立てるようにそう言った彼に彼女は苦い笑みを浮かべた。

「俺今日教授が学会で休みなんで」

『…Aを、一人でオフィスには放っておけなくて？』

さっきとは打って変わって、今度は冷静な声だった。

彼女にもバレている、そう思った俺は息を吐いた。

「はい、そうです」

これはある意味、俺の意思表示だし、伊沢さんだってこれを見抜けないわけがない。

『そうか。ごめんな川上』

こんなの公開処刑に等しいものがある。

想い人にもバレ、更にその恋人にもバレるなんて。

カッコ悪、俺。

「大丈夫です。伊沢さんといる時の彼女が、一番幸せそうですから」

そう言うと、目の前にいる彼女は戸惑ったように頬を紅く染め上げた。

その表情を生み出せるのは、俺ではない。

そのことを実感させられてしまった。

伊沢さんも満更でもない様に電話口で笑っている。

その光景に、俺はあきらめにも似た感情が起こってきた。

彼女のことは好きだ。おそらくこの先もずっと。

けれど、この光景を見せてくれるカップルを否定できるほど俺も腐った人ではない。

「伊沢さん」

『ん？』

「泣かせたら、容赦しませんから」

俺の言葉に、彼女が目を見開き、俺の事を凝視しているのがわかった。

『…ハハ、マジで殺されそうだな』

冗談で返してくれた彼だけど、きっとその目はいつもの力強い目であるはず。

そう言って直ぐに、俺はイヤホンを外してしまった。