Accueil【伊沢拓司】 (ページ43)

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水上side

「Aさん」

「ん？」

先程まで浮かんでいた憂いの感情は消え去り、いつもの明るい瞳に戻っている。

「…いえ、なんでもないです」

さすがにそこまで踏み込めない俺は、首を横に振った。

「伊沢さんもいるし、俺はそろそろ帰りますね。明日はちゃんと病院、来てください」

「颯くん、お父さんみたいだよ」

「え、お父さんのこと思い出したの？」

俺がそう聞くと、彼女は少しだけ歯を見せた。

「いや、そうじゃないけど…お父さん、こんな感じだったのかなって」

本当のことを知っている俺からすると、そんなことは無いと言いたかった。

けれど、それを言えば、今の彼女の夢や、理想の父親像を崩してしまう気がした。

「そうかもね」

俺がそう言うと、彼女はぱっと顔を明るくさせる。

「私の親ってどんな人だったのかなぁ…」

「Aさんが思い描いた通りの人かもよ」

“それだったらいいなぁ”

笑いながら言う彼女に少しだけ胸を痛める。

「A、水上」

執務室から撮影部屋の扉を開けた伊沢さんが、俺たちを呼ぶ。

「どうしました？」

「ご飯食べいく？」

車のキーを見せた彼に、彼女は大きく頷く。

「僕、邪魔じゃないですか？」

「んなわけねぇだろはやく行くぞ」

伊沢さんは笑いながら俺とAさんに背を向ける。

「じゃ、俺車椅子押しますね」

「ありがと」

Aさんと伊沢さんの優しさに触れて、だからこそこの人たちのことは憎めない、そう思いながらAさんの車椅子を押した。