Accueil【伊沢拓司】 (ページ34)

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川上side

俺がそう言うと、伊沢さんは目を見開いた。

「…あげないよ？」

少し考える素振りを見せた後、彼はいたずらっ子の様な笑顔を浮かべた。

無理をしている。

中学生の頃から何かと会うことが多かった俺からすれば、彼がそうしていることなんて一目瞭然だった。

「当たり前ですよ。むしろそんな簡単にくれるなんて言われたら俺伊沢さんのこと殴ってます」

「ハハッ、川上らしいや」

変わらず無理をした笑みを浮かべる伊沢さんにため息を吐きたくなった。

同時に、恋敵(ライバル)に助言をする自分を嘲笑した。

俺やってAさんのことが好きなのに。

それなのに、Aさんの視界に入るのは、いつだって伊沢さんじゃないか。

事故に逢う前も、逢った後も。

「…あなたが正解やと思えば、それは正解ですよ」

俺は文献を手に、借りる手続きをするために席を立つ。

クイズみたいに知識で解決する問題でなければないほど、完璧に見える伊沢さんの人間らしいところが明るみになっていく。

明るみになればなるほど、彼の魅力が引き出されていくんやから、Aさんが惚れるのも仕方がないんやと思う。

「…川上」

カウンターへ行こうと足を踏み出した時、彼に呼び止められた。

「今度飯、奢るよ」

この言葉は、追い詰められた時の彼なりのお礼であることも、俺は知っている。

「大したことやないです」

俺が笑うと、彼は、いつもの無邪気な笑顔を浮かべたのだった。

「ありがと」

いつもの無邪気な笑顔やのに、その笑顔はどこかスッキリとしていて。

「…推し、かぁ…」

須貝さんが言っていたように、この感情を推しにすり替えれば、きっと俺もさっきの伊沢さんのような笑顔を浮かべられるのだろうか。

人の雑踏に紛れながら、そんなことを考えていた。