Accueil【伊沢拓司】 (ページ30)

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渡辺side

「こうちゃん、ちょっといい？」

「…はい、Aさん関連ですか？」

大学構内を歩いていると、伊沢さんに呼び止められ、そちらを振り返ると彼は真剣な目をしていた。

これはおそらくAさん関連だろうな、なんて思ってしまった。

Aさんは今、ファルコンさんに連れられてリハビリに行っていて、ファルコンさんの話だともうしばらく時間がかかるだろう、というらしい。

「うん、そうなんだけど…5限目は空き？」

「はい、空きです」

腕時計を確かめてから、次の授業を正確に当てて来るところは、元東大生を感じてしまった。

「こうちゃんはさ、Aにご両親のこと、話すべきだと思う？」

伊沢さんのその言葉に、耳を疑ってしまった。

「…やっぱり、伝えていなかったんですね」

「ハハ、水上に頼み込まれちゃってさ〜」

伊沢さんは笑いながらも、目は真剣そのものだった。

伊沢さんがAさんのことを全力で想っていて、Aさんのために動きたいという思いがひしひしと感じられた。

「これは、あくまでも俺の感想です」

Aさんのご両親のことは、記憶を失う前に聞いていた。

事故のショックで忘れたのなら、そのまま忘れたままでもいいかもしれない。

「いち友人としてなら、おそらく彼女には黙っておくと思います」

友人として、Aさんにご両親という現実を突きつけたくなかった。

「Aさんの気持ちは推し量ることはできないです」

それでも、

「それでももし、俺が両親の記憶を失っていたら、知りたいって思いますよ」

紛いなりにも自分を育ててくれた両親のことを忘れるなんて、したくないから。