とくさつ短編集 (ページ10)

今日:4 hit、昨日:10 hit、合計:6,842 hit

不破諫に心配される② ページ10

違和感に顔を顰めていると、散々睨みをきかせてきた不破の視線がふっと外れた。
「…え？な、待ってください隊長！」
徐々に遠ざかっていく距離に動揺して伸ばした手は虚しく空を切った。
「不破隊長…！」
「A。」
休憩室を後にしようとした不破の足が止まり、ドアノブに掛けていた手がそっと下りた。ゆっくりと振り向くと不破はなにか言いたげにAを見た。
「…別に信頼が無いわけじゃない。俺はただ…」
「……？」
「いや…いい。負けだ。お前のやる気は痛いほど分かった。…検討する。」
「へっ？」
言い切らないまま踵を返す。ドアを閉める音が休憩室に響き、喜びもせず唖然とドアを見つめるAだけがポツンと取り残された。

「俺はただ…」
ただ、お前には死んで欲しくない。
産まれたての子鹿のように、Aが何も出来ない新人で居てくれた方が良かった。
真っ直ぐで仕事熱心な部下に、個人的な理由で引き留めるような事は言えそうもなかった。
そもそも出会いが“ここ”だったのがいけなかったのかもしれない。彼女が戦わなくていいただの一般人なら…と、ヒューマギアの暴走が急増している最近はそんな現実逃避じみたことが頭をよぎる事がある。

「………馬鹿馬鹿しい。隊長失格だな」

思考を振り払うように折れてない方の手でガシガシと頭を掻きながら、不破は静かな廊下を闊歩した。