とくさつ短編集 (ページ3)

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五代雄介に慰めてもらうページ3

五代雄介

都内文京区。趣ある木製のドアを閉めると、外の激しい雨音が遠くなった。入口に突っ立っているAに気付いて、カウンターの中に居た五代は穏やかな声で話し掛けた。
「おかえりなさい。ひっどい雨だね〜、外」
家でもないのに「おかえり」と言われた事が妙に暖かく、Aは少し泣きたくなった。綺麗に整えた髪もお気に入りの服も、雨水を吸って嫌に重たい。よく磨かれた床に落ちる水滴がまるで涙のようで、それをじっと眺めた。
「傘…は、持ってなかったかぁ」
一向に動こうとしないAの肩を押し、カウンター席に座るよう促した五代は、店の奥からバスタオルを一枚持ってきて彼女に被せた。タオルの上から丁寧に髪を拭いてくれる。じんわりと伝わる温もりで、また少し泣きたくなった。
「そうだ、みのりの服借りたら？着替えなきゃだけど、俺のよりいいでしょ｣
みのりには俺から言っておくしさ、と彼はいつもの調子で言う。
何があったか聞かないのかと、Aがか細い声で問うと、五代は手を止めて目をぱちくりさせた後、うーんと唸った。
「そりゃあもう、めっちゃくちゃ聞きたいさ。Aちゃん帰ってきてから元気なくて心配だし、なんだか上の空って感じだし？俺のことも見えてないんじゃないかって思ったらちょっと寂しいし………」
指を折って数えながら話していた五代はコホンとわざとらしい咳払いをして、再び手を動かし彼女の髪を拭いた。Aは訳が分からずに首を傾げる。
「でも、Aちゃんのタイミングで良いんだよ」
Aは五代を見た。視線に気付いた彼は「やっと目が合った」と微笑み、それから親指を立てた。
「大丈夫！無理すると余計辛いから、君のタイミングで良いんだ。だから話さなくても大丈夫。…あでも、話したくなったらいつでも声掛けて！も、すぐ飛んでくから」
親指をグッと押し出す彼に頷く代わり、向かい合わせるように親指を立てた。安心感から自然と笑顔が零れる。
「お、笑った！良かったぁ…！やっぱりその方が似合ってるよ〜君は」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「さ、Aさんの元気が出るように、五代雄介ブレンドをご用意致しましょうか？」
今日の土砂降りも忘れてしまう、青空のような彼の笑顔を見ながらAはうん、と頷いた。