とくさつ短編集 (ページ2)

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一条薫に告白してみるページ2

一条薫

緊張に身を強ばらせる。それを隠すために、いつもより明るい声で彼を呼び止めた。23時の警視庁は人通りも少なく、2人のいる廊下は特に静けさが充満している。
「Aくんか。こんな時間まで勤務しているのは珍しいな」
やや困惑した様子で、一条は彼女を呼んだ。
覚悟を決め、Aは密かに両手で拳を作り、深呼吸をした。
「Aくん…？」
そこから先、自分は何を言ったのか、どんな表情をしていたのか、はっきりと覚えていない。対照的に何度もフラッシュバックされるのは、彼の驚いた顔と、寂しい笑顔。そして何より
「君の笑顔を守ることが出来るのは、きっと俺じゃない」
という言葉だった。有り得ないと否定した。なぜそんな事を言うのかと問いただした。しかし返ってくるのは微笑みだけで、一条は何も言わなかった。暫く続いた沈黙の中、ぽつり、ぽつりとAが言葉を紡ぎ出す。
私が勝手に、隣に居たいだけ
「え…？」
私が勝手に、貴方の笑顔を守りたいだけ
「……｡」
私だって、警察官の端くれだ。守る側の人間だ。いつからか一条に好意を抱いていたのは、不意に寂しそうな目をみせる彼を、黙って見ていられなかったからだ。なぜ告白したかなんて事は、ほんの少し考えれば分かる簡単な理由だった。
貴方の笑顔は私が守りたい。まず1番に、そう伝えたかったのだ。
「驚いたな」
若干明るくなった一条の声色を聞いて、Aはいつの間にか頬を流れていた涙を袖で拭った。
「ありがとう。本当に」
ふと、頭上に影が落ちた。暖かい掌がAの髪を優しく撫でる。
「警察官の君に誤魔化しは効かないな…」
何かを言いかけている一条へ視線を向けると、逸らせなくなるほど真剣な、且つ穏やかな眼差しとぶつかった。
「好きだ…君が。Aさん。……本当のところ、最後まで言うつもりはなかったんだ。俺が君を諦めれば、君は俺じゃない誰かと幸せになると思った。」
Aは黙って耳を傾ける。
「だが…そんなものは自分勝手なのだと……君に気付かされてしまったよ」
無理に引っ込めようとしていた涙が再び零れだし、一条は眉を下げてはにかんでみせた。