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「糸黒」の名はその手の企業であれば中々に融通が効く。
彼等は仕事として動いてくれる為、私個人の動きが本家に伝わることも無い。
何も言わないず訊かない事こそ、裏社会では受容されるものだ。
そんな光景をまじまじ荼毘に見られていたとは露知らず、カードキーを翳して部屋に入った。
「随分と待遇のいいホテルだな。」
「使えるものは使いますから。そう言えば、荼毘は嫌いなものとか、食べれないものはありますか？」
「あ？…食い物なら魚が嫌いだ。」
「了解です。後で食事を届けて頂けるので、魚は持って来させないようにします。
すいませんが、私はシャワーを浴びできますので、寛いでいて下さい。」
断りを入れてバスルームへ向かった。
何となく彼が私を探るような目で見ていた事は分かっていた。
探られるような事をしている自覚もあるし、私が彼を探った時点でその覚悟もしてあった。
しかし、彼は推し量るばかりで何かしらを訊いてくる様子はない。
彼になりの気遣いなのか。
何であれ、今はそれが有難かった。
後に訊かれるとしても、今でなければ落ち着いて答えられるだろう。
「上がりました。」
部屋に戻ると、週刊誌に目を通す荼毘がいた。
その双眸がこちらへ一瞬向けられたが、直ぐに雑誌の方へ視線を戻した。
「アンタ、その状態でも"個性"使えるのか？」
「濡れている分変質速度はやや落ちますが、使う分には問題ないです。」
会話が切れたタイミングで、扉が小気味良くノックされた。
食事を持って来てくれたようで、ワントレーは両腕に抱え、もうワントレーは髪で受け取った。
手に持ったトレーを荼毘の方に置き、髪を乾かすべきか食事が先か悩んだ。
「荼毘はシャワー浴びますか？」
「…後で借りる。アンタは先に髪乾かしたらどうなんだ。」
「そうします。」
洗面所を彼が使わないと分かり、髪を乾かしに行く。
彼も食事を取るのだなと思いつつ、水気で重たい髪の形質を変えて乾かしやすくする。
切ってしまえば乾かすのは楽になるのだが、如何せん自分の遺伝子情報がその辺に残るのは嫌なのである。
荼毘に燃やしてと頼むのも気が引けるので、何分も掛けて丁寧に乾かしていく。
戻って見ると、荼毘は既に完食していた。
「食べているところ見れなかったです。」
「残念だったな。」
「綺麗に完食されてますね。口に合いましたか？」
「まあまあだな。」
彼と入れ替わり、彼がシャワーを浴びる間に私も食事を済ませた。
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作者名：馬×3 | 作成日時：2021年10月7日 1時
