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車に暫く揺られ、着いた先は安室さんの自宅付近の駐車場だった。
既に濡れ切ったと言うのに、安室さんは私も傘に入れた。
聞きたい事は色々あったけれど、真っ直ぐに自宅へ向かっているであろう彼に口を開く事が出来なかった。
「どうぞ、入って下さい」
「…お邪魔、します」
「靴下を脱いでこちらに来て下さい」
促される様に室内へ踏み入れると、そこは洗面所兼脱衣所だった。
疑問に思っていると、安室さんは外から扉を閉めたのでその場に取り残された。
「Aさん、風邪を引いてしまいますので取り敢えずシャワーを浴びて下さい。
後で着替えは置いておきますので」
そう告げて彼の足音が離れていった。
「……????」
本当に訳が分からなかった。
確かに寒かったのも事実なので、散漫とした思考のまま濡れた衣服に手を掛けた。
「……??
………え?何で安室さんの家でシャワー浴びる事になってるの…???」
今更過ぎた疑問を抱きつつ、シャワーを浴びた。
風呂場を出ると、脇にバスタオルと衣服が置いてあった。
その衣服を広げてみればサイズの大きいTシャツと七分丈のズボンがあった。
如何しようかと悩んでいると、扉が叩かれた。
扉越しに安室さんに話しかけられた。
「Aさん、上がりましたか?」
「あ、はい」
「勝手ながらAさんの衣服を洗濯させて頂いているんですが、如何せん下着まで濡れていて…
Aさんが平気でしたら僕のをお貸しするんですけど、如何したら良いでしょうか?」
戸惑っているような、困った声音で問いかける安室さんに、私もうんうんと唸った。
「…私は平気なんですけど、安室さんに抵抗がある様でしたら下着なしでも大丈夫ですよ?」
私がそう言った瞬間、ガタッと物音がした。
確かに私は彼に好意を抱いていると自覚したけれど、色恋に疎いきらいがあり、その辺の貞操観念まで思考に含まれていなかった。
「あ、貴女は…!ご自分が女性で、僕が男だと言う事を自覚していないんですか?」
「…こんな小娘に安室さんの気を引くようなものがあるとは思えませんし、大丈夫では?」
「…僕は気が気でならないですよ……。
僕の下着を貸すので履いて下さい、お願いしますから……」
何処か懇願する様な彼に免じて、扉から渡されたそれを受け取った。
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作者名:馬×3 | 作成日時:2020年4月25日 3時