40 ページ40
連れて行かれたのは、この建物の最上階だった。
内装は先程居たフロア程では無いが、衝撃の所為で悲惨な事になっていた。
最上階には外からの明かりと月の光のみで薄暗かった。
然し男は暗さなどもろともせずに、私の両腕を縄で拘束した。
恐らくこの騒動の主犯であろう人物と二人きりの空間で、私は出来うる限りの状況把握を試みた。
「…貴方が、この事件の犯人ですか…？」
「そうだ。お前は人質として此処にいる。」
「何故こんな事を……」
「お前に関係あるかは知らないが、少なくともここに来ている人物の多くに関係している事は確かだ。
災難だったな。
恨むなら逃げ遅れた事を恨みな」
予想外に返って来る答えに関心しつつも、核心に触れないように情報を聞き出した。
「彼らが、何をしたというのですか…？」
「"ポートフィナンシャルグループ"、このパーティーはその分裂企業の重役のパーティーだ。
表向き交流会と称しているが、実際は分裂企業毎の重役が本体企業の幹部として情報共有を行う為に設けられた。
俺はポートフィナンシャルグループに対する怨恨でこの事件を起こした。
お前はそれに巻き込まれた哀れな親族。
この企業は表社会とも裏社会とも通じている、表と裏の"ポート"だ。
表では所有する港の面積と船の規模による強大な国際貿易企業。
然しその貿易の内容は、蓋を開ければ世界の闇が広がっている。
武器、ドラッグ、盗品……。
そんな物が平気で流通しているんだ。
俺と俺の両親は、貿易事情や海域なんかに関する記者だった。
両親はそこの事を知って俺に連絡を寄越した翌日、消息を絶った。
最後に両親が向かった場所に何とかたどり着いたのは１ヶ月後だった。
そこは港の倉庫街だったよ。
何も無かったように、唯の倉庫でしかなかった。
だけど俺はそこにあった、母親の遺品を確かに見つけた。
記者の命とも言える、ネタ帳だった」
男は私が聞くまでもなく、動機というものを独白していた。
語り手となっている男の目には、憂いや悲しみの影などなく、
唯々憎悪、復讐心が渦巻いていた。
彼は今、持てる生命力全てを持って復讐と言う執念を持っていた。
この時、私はまた安室さんを思い出していた。
先ほど見た安室さんの瞳にも、静かな執念が宿っていた。
然しながら、この男と安室さんの執念は明らかに違っていたーーー
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：馬×3 | 作成日時：2020年4月25日 3時
