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その鋭い眼光は、私の視線を縛り付けた。
何か一つの意志を孕む瞳から目を逸らすことが出来なかった。
「そんなつもりはありません…」
「僕個人に対してだけでないと言うなら、尚更放っては置けない。
君の観察眼は優秀だ」
「貴方は、何者ですか…?」
「…僕は、しがない探偵です」
ーーまた、嘘が混ざっている。
その笑みは何だろう。
安室さんは、私が嫌う作り物の笑みを浮かべた。
ポアロで向ける笑顔とはまた違った、挑発的な笑み。
私を試しているのだろうか…。
彼の表情に対する疑心と、彼の表情一つにここまで頭を悩ませる自分自身の疑り深さにも、顔を歪める他なかった。
「Aさん。
貴女は今、僕の言葉、表情から一体どれだけの情報を受け取ったのでしょうか?
参考までにお聞かせ願いたい」
確かに彼は真実を話してはいる。
しかし彼は嘘を吐いている。
この違和感と矛盾はなんだろう。
真実が虚偽を内包しているのか、虚偽が真実を外包しているのか……
生憎私は答えに辿り着くまでの情報を持ち合わせていない為、曖昧な事しか分からなかった。
「貴方は、嘘も言っているし、事実も言っている。
私にはその矛盾の答えが分からない。
貴方の都合も私は知りません。
だから私は、貴方の言葉を信じられません……」
「……それだけ分かっていれば、将来は良いプロファイラーかメンタリストにでもなれそうですね」
それは彼なりの嫌味だったのだろうか。
分からない。
何も分からないまま、私は安室さんの車に乗っている。
静かな車内で、車道を走るこの車の音がよく聞こえた。
「…良い車ですね」
「ええ、僕も気に入っています」
家まで送ると言われ、断るのも無意味な気がしたので大人しく送られた。
礼を述べ助手席から降りる際、一言告げ口をした。
「安室さん。
普通探偵と言うだけでは、この車は乗れませんよ。
燃費も余り良くないですしね」
彼は笑った。
その時の笑顔は私の嫌う作り笑いなどではなく、何処か複雑そうな、素を感じさせる顔だった。
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作者名:馬×3 | 作成日時:2020年4月25日 3時