【太宰治】一腕一足の少女 (ページ6)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:27,962 hit

災難之幸也Ⅲ ページ6

「空腹で頭は朦朧とするし、どこをどう逃げたのか。」

「それ、いつの話？」

「院を出たのが2週間前。

川であいつを見たのが……4日前。」

「確かに、虎の被害は2週間前からこっちに集中している。

それに4日前に鶴見川で虎の目撃証言もある。」

「先程太宰さんが川に飛び込んだ橋辺りの河川敷にも、虎の足跡がありましたよ。」

私の異能力『沈みゆく日』は、目に見えない痕跡などを見る事ができる。

例えば足跡、体液痕、水跡等など。

そしてそれを周囲へ可視化する事もできる。

先程国木田さんの腕を引きながら河川敷を見ていたのは、捜索途中の虎のものと思しき大きな足跡が"見えた"からである。

私は青年の云っていた、「院を出たのが2週間前」という言葉に疑問を感じていた。

太宰さんは何かを考え込んだ後、青年を指さした。

「敦君、これから暇？」

「……猛烈に嫌な予感がするのですが。」

「君が『人食い虎』に狙われてるなら好都合だよね。

虎探しを、手伝ってくれないかな。」

「い、いい嫌ですよ！

それってつまり、『餌』じゃないですか！誰がそんな……。」

「報酬出るよ。」

申し出を拒絶するように席を勢いよく立った青年は、｢報酬｣と言う言葉にたじろいだ。

がめついと云うか、当然の反応というか、よくも悪くも素直な反応で好感を持てた。

懐から取り出したメモ用紙に何かを書き込んだ太宰さんは、それを隣の国木田さんに渡した。

「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に。」

「おい、三人で捕まえる気か？まずは情報の裏を取って……。」

「いいから。」

「ち、ちなみに、報酬はいかほど？」

「こんくらい。」

＊次数→