【太宰治】一腕一足の少女 (ページ44)

今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:27,964 hit

準備ページ44

基本的に私は事務員の扱いだが、有事の際は調査員として行動する事になっている。

社長の通達により、春野さんを筆頭に事務員達は忙しなく現在の業務の凍結処理を行っている。

作成途中の書類の引き継ぎを幾つか行い、現時刻において私は事務員として奔走していた。

「田中さんと藤村さんから頂いた引き継ぎは各ファイルに纏めてあります。確認出来次第、棚の前に置いて下さい。」

「有難う御座います。別件で他の書類もお願いしたいのですが…」

「此れから持って来る様でしたら、私の机までお願いします。」

次々と机に重なる紙束をPCとを通して確認していき、押印作業に迄捌いていく。

寝不足の身体に無体を働いているが、四の五の云っている余裕はない。

此れも今の私に出来る事なのだと仕事に没頭していれば、自身の無力さ加減も少しは紛れる。

サーバー兼資料室へ向かう為社内フロアと事務室とを行き来する中、調査員数名が騒がしくしていた。

「如何かされましたか敦さん？」

「あ、水野さん！実は先刻『組合』の人と交戦しまして…。」

「昨日の女性ですね。皆さんご無事で良かったです。」

「何で昨日の女性だって分かるんですか？」

「先程緊急会議を行いまして、其の際に其の辺りの推測をしたんですよ。」

「成程、そうだったんですね！

そう云えば、一般の方も巻き込まれて仕舞って、其の人も無事だったんですけど助言まで頂いて…。

僕もまだまだですね。」

「助言ですか？」

「「どんな困難な戦局でも、必ず論理的な最適解は有る」って。

お医者様らしいんですけど、やっぱり歳上の方だけあって貫禄が違いますね。」

「…其の方は、若かして幼女…幼い女の子を連れていらっしゃったり…」

「そうです！ひょっとしてお知り合いですか？」

「あー…ええ、まあ。兎に角ご無事で良かったです。」

「…実は先刻迄鏡花ちゃんの顔色が悪かったんですけど、今は大丈夫そう？なんですかね。

僕じゃ力になれそうもないので、若良ければ水野さんに様子を見て頂きたくて…。」

「分かりました。彼女の事を気にかけてくれて、有難う御座います。」

「事務員さんの方達がお忙しい中、すみません。」

「気にしないで下さい。数分であれば問題ありませんし、何より社員を気にかける方が優先ですから。」

先程の敦さんの話から察するに、"彼の人"の所為である事は間違いなかった。

応接用ソファに座る鏡花さんのもとへ向かった。